中学に入ると、三日に一度は学校図書館に行って、『少年少女世界文学全集』『世界の神話・民話』『西遊記』『三国志』といった大冊を借りて帰り、卒業するころには読みたい本がなくなっていた。
高校生のころは『日本文学全集』『古事記』『日本書紀』などなど。山田風太郎の忍法帖シリーズはみんな読んだ。
大学では麻雀に憑(つ)かれて、阿佐田哲也の『麻雀放浪記』。啓発されてイカサマの天和や大三元を練習したが、ものにはならなかった(この話を阿佐田さんにいうと、ずいぶんよろこばれた。「あれは小説だから」と、阿佐田さんは笑っていた)。このころ、司馬遼太郎の作品も文庫で出るたびに読んで、その豪腕とスケールの大きさに圧倒された。『嗚呼!! 花の応援団』や『カムイ伝』といった漫画もよく読んだ。
大学を出て大手スーパーに勤めてからは、ぱったりと本を読まなくなった。漫画もやめた。同僚との麻雀で稼ぐほうがおもしろかったからだろう。
スーパーを辞めて高校の美術教員になったころからミステリーを読みはじめた。クリスティーやクイーン、ポー、コナン・ドイルといった古典を読みあさり、こんな名探偵はおらんやろ、と思ったときに目覚めたのが松本清張だった。『点と線』『ゼロの焦点』『眼の壁』、これらが一時期に書かれたことを知って驚いた。
いつか自分も推理小説というものを書いてみたいとおぼろげながらに考え、それが契機でわたしの人生は百八十度、転換した。
※週刊朝日 2020年10月2日号
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