『わかりやすさの罪』の武田砂鉄と、『ハイパーハードボイルドグルメリポート』の上出遼平による初の対談。「このままわかりやすさが進んだらどうなる?」という問いを前に、武田と上出があれこれと思考をめぐらせる。
【対談相手『ハイパーハードボイルドグルメリポート』の上出遼平さんはこちら】
※「『テラスハウス』は叩かれ『モニタリング』はウケる…テレビ業界的なものに操られる視聴者たち」よりつづく
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上出:ぼくは山に登るんですが、自然ってまったく予測がつかなくて、それこそわかりにくさが凝縮されているんです。山の楽しさって、必要なものを全部自分で背負って、山の中を何時間も歩いて、テントを張る場所を見つけて、寝るところまでこぎつけるという営みそのものなんですね。
なんですけど、いまグランピングって流行ってて。キャンプ場に立派なテントが用意されていて、中にベッドや暖炉があるんですよ。食材も調理器具も全部準備されていて、給仕がバーベキューを提供してくれるところまであって。
武田:全部お膳立てされているんですね。
上出:そうなんです。それが、すごく嫌なんです。山の中に高級ホテルと同じような状況を作って、「はいどうぞ」って。テレビも同じで、わかりやすく加工された情報がサービスとして提供されて、視聴者は受け取って終わりになってしまっている。1ミリの能動性も求められない。あらゆる場面でそういうことが起きているなと感じるんです。
武田:そうやってグランピング化されてしまった社会を変えるためには、やっぱり破壊しにいったほうがいいんでしょうかね。
上出:どうしたらいいんですかね。
武田:グランピングを避けることはできると思うんですよ。行かなければいいわけだから。それだと基本的な構造は変わらない。だからといって、グランピングを壊しに行くと、ホントに嫌なヤツだと思われるという。
上出:はははは。
武田:この人、なんでわざわざ壊しに来るの? ということになるんですよね。
上出:こんな素敵なサービス、なんで邪魔するの? ってなりますよね。武田さんに聞きたいことがあるんですけど、このわかりやすさはどんどん進んでいくじゃないですか。選択肢が少なくなって、あらゆるものが二択になっていきますよね。どれだけ武田さんが抗っても。
武田:ええ。
上出:どんな世界が待っていると思いますか?
武田:いやー、どうなんでしょうね、と答えを保留するだけでは、さすがに無責任ですかね。