■具体的に思いを語る
昨年は今年同様の皇嗣妃としての活動を振り返っての感想、加えて今後の抱負を聞かれた。それに対し紀子さまはまず、上皇、上皇后両陛下への感謝を述べた。次にこれまでの活動を支えてくれた人らへの感謝。それから令和になって新たに出席した会三つとポーランド、フィンランドへの公式訪問をあげ、こう述べた。「私にとりまして学ぶことが多く、新たな人々と出会う貴重な機会にもなり、感謝しながら務めました」
ほとんどが「感謝」で、「感想」はあまりない。それが1年経って、鎌倉芳太郎氏の名前をあげるまでになった。己を出す紀子さまがうれしく、「実力」と「自信」を見て取った。
実は紀子さまが誕生日に文書回答をするようになったのは、昨年からだ。皇嗣妃という立場になったからで、それまでは秋篠宮さまの誕生日会見に同席するだけだった。
それが、2年目にして大きく変わった。全部で2千文字にもいかなかった回答が大きく増え、今年は約5千文字になった。より具体的に、自分の思いを語るようになったから増えた。その典型が、先ほどから紹介している沖縄。そこにあった「共感」という言葉も、昨年にはないものだった。
翻って上皇さまは、皇太子時代から沖縄に心を寄せ続けている。「忘れてはならない四つの日」の一つは、沖縄戦が終わった6月23日。美智子さまと共に11回、沖縄を訪ねている。その心を子どもの頃から受け継いだ秋篠宮さま。結婚から7年、紀子さまは1997年の歌会始(お題は「姿」)でこう詠んでいる。
<染織にひたすら励む首里びとの姿かがやく夏の木かげに>
皇室に入って以来、紀子さまはずっと沖縄に心を寄せ、学び続けてきたに違いない。だが「実力」と「自信」を示したのは、長く取り組んでいた沖縄だけに限ったことではないのだ。
感想の中で多くの字数が割かれたのは、コロナ禍のオンライン交流についてだった。専門家から話を聞いたり、全国高等学校総合文化祭を視聴したりといった体験を語り、オンラインがコミュニケーションを広げる可能性も述べた。と同時に、情報通信機器を使うことが困難な人がいることにも触れていた。
言葉こそ使っていないが、情報格差が生じていることへの言及とも読める。世の中を見る目の広さと深さが感じられ、それを表明できるのも「自信」があるからこそだと思った。(コラムニスト・矢部万紀子)
※AERA 2020年10月5日号より抜粋