男の子が性的に関心を持つことと、女の子の意思を尊重しないことが、なぜかセットになってしまう文化で、やはり女性だから強いられる屈辱や、悔しさ、恐怖というものがある。そしてその恐怖を口にしたところで、「うそをついているのではないか」「男の人生を壊すのか」「これくらいのことで騒ぐな」などと口をふさがれてきたのが性暴力だ。こういう世界では、女の子に関心のない男の子も、相手の気持ちを考えられる男の子も生きにくい。女の同意などに思いをはせるより、スカートめくりをして男友だちと盛り上がれるほうが「男らしい」社会なのだし。

 先日、AV産業に巻き込まれた女性の話を聞く機会があった。有名になりたいという、うっすらどこかに持っていた思いを完全に利用され、彼女はAV業界に入った。高校を卒業したばかりの18歳だ。傍から見たら彼女は自分の意思でAV業界に入り、女優として頑張りキャリアを積んできた人に見えるかもしれない。でも、どこかでずっと、「これは私が選んだことなのか」という不安が人生につきまとっている。初めての撮影の日、成人男性数人に囲まれて、目の前に大人のオモチャを複数並べられ「選んで」と言われる。何のことかもよく分からないが、その場を早く終わらせたい気持ちでどれでもいいやと一本を選ぶ。「へー、そういうのが好きなんだ」という雰囲気が和やかに男性たちの間で生まれ、撮影が始まる。そのオモチャを使ってみて、もっと声をあげて、もっともっと。要求に応えれば、そこでは認められる。だからやっぱり求められるように頑張ってしまう。でも。

 自らペンを持ち「同意」の署名をしたAV出演ですら、自分がどこまで同意したのか、その結果がどのようなものなのか分からないと話す女性は少なくない。そもそも真摯な同意を取ろうとしていたら成り立たない産業なのではないかという思いが、被害女性たちの声を聞くほど募る。

 #MeTooの世界的な強い流れの中で、「同意」についての考え方は日々、進化している。男の子たちの軽いお遊び、軽い娯楽。そんなものが相手からみたら「同意」のないところで起きている暴力の可能性もある。ステルシングも、AVによくある「軽い行為」でもある。変えなければいけない根は深い。

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表

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北原みのり

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北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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