竹内さんらは長さ1センチの細かな溝をすだれ状に刻んだシリコン製のシートに筋肉の元となる細胞をゲルで固めて流し込み、できた筋肉が縮んでしまわないよう両端をつなぎとめて培養する方法を開発。こうしてできた筋肉組織を、断面が市松模様になるよう1列ずつずらして積層させていくことで、組織の間を栄養分が通るようにした。
42層重ね、7日間培養した結果できたのが、前出の筋組織だ。本物の筋肉と同様、きれいに向きがそろった構造を実現。竹内さんは「この筋肉細胞の成長は体内で起きていることの再現です。遺伝子操作やクローン技術はいっさい使っていません」と強調する。
■「食べたい」わずか3割
あとはこれを、「ステーキ肉」のサイズまで拡大させるのが最終ミッションだ。肉のサイズは約100倍で、培養に必要な装置も同様に約100倍の規模になると見積もられている。
技術面の課題をクリアできても、気がかりなのは市場に受け入れられるかだ。日清食品と弘前大学が19年に行った意識調査では、培養肉を「試しに食べてみたい」と考える回答者は3割弱にとどまった。東大と日清食品のコアメンバーで十数人いる研究チームの一人、名古屋大学大学院生命農学研究科出身で日清食品に入社以来、竹内さんの研究室に配属されている古橋麻衣さん(28)はこう話す。
「私も肉好きですが、脂肪が多い霜降り肉は食べ過ぎると栄養分が偏り太るのが心配です。また赤身肉も焼くと発がん性物質が出る可能性が指摘されています。培養肉は環境面だけでなく、健康により配慮した食品として提供できる可能性があります」
仲村さんは「消費者に受け入れてもらうには環境負荷の軽減や、動物愛護といったメリットを知ってもらうことに加え、可能な限り作業工程を情報開示することが必要と考えています」と話す。牛で基本的な概念実証ができれば、ウナギなど絶滅が危惧される希少種にも応用の可能性が広がる。人類の未来を救い、生物多様性の維持にも貢献する技術の実現が待ち遠しい。(編集部・渡辺豪)
※AERA 2020年10月19日号