動物を殺さず、筋肉を人工的に培養して作り出す「培養肉」。環境保護や動物福祉の観点から世界的に注目され、開発競争が激しい。先頭を走る日本チームがこだわるのは「本物の味」だ。AERA2020年10月19日号の記事を紹介する。
【写真】一部のカップヌードルに入っている謎肉「ダイスミンチ」
* * *
少量の細胞を採取して増やし、動物を殺さずに肉を得る「培養肉」の生産技術が世界で進んでいる。世界の先端を走るのが、日清食品HDと東京大学の共同研究だ。目指すのは厚さ2センチ、タテヨコ7センチという堂々たる「培養ステーキ肉」。100グラムの牛ヒレステーキのイメージだ。成功すれば世界初になる。4年半後の2025年3月末に基礎技術を確立するのが目標だという。
■食料と環境を同時解決
「ナノ構造レベルの模倣を追求することで、本物のステーキ肉と区別のつかないほどリアルな食感と風味、栄養分の実現を目指しています。消費者の満足度が高い品質を生み出せなければ意味はない、と考えています」
そう話すのは、「大の肉好き」という東京大学大学院情報理工学系研究科(東京大学生産技術研究所兼務)の竹内昌治教授(48)だ。
培養肉が注目される背景にあるのは、人や社会・環境に配慮した消費行動「エシカル消費(倫理的消費)」の広がりだ。
家畜を育てるには大量の穀物や水、牧草地が必要なほか、排泄物は温室効果ガスの排出源になり、環境への負荷が大きい。さらに国連は2050年には総人口が97億人になるとの試算を発表。国連食糧農業機関(FAO)は「畜産物への需要も70%増加する」と予測し、「温室効果ガスの重要な排出源である家畜の育成を削減することは、壊滅的な気候変動を回避することに寄与する」と提言している。
培養肉は、世界的な食肉需要の増大と温暖化防止という課題を同時に解決できる可能性があるのだ。
培養肉を含む「家畜に頼らない肉」は4段階に分けられる。
レベル1は「肉もどき」。昔ながらの精進料理や豆腐ステーキを指す。日清食品のカップヌードルに入っている「謎肉」は肉と大豆由来の原料に野菜を混ぜて味付けしたもので、レベル1の応用型と言える。