日本学術会議の新会員候補6人が任命拒否された問題がくすぶり続けている。菅義偉首相に「任命できない人が複数いる」と事前に説明したのは警察庁出身の杉田和博官房副長官だと報じられており、野党は杉田氏の国会招致を求めている。警察庁関係者が言う。
「安倍政権のときから官邸では警察庁出身者が重用されていて、杉田氏はその一人。省庁の人事も握っているので、霞が関の官僚は杉田氏の顔色をうかがって仕事をするようになってしまった」
官僚の人事を掌握した菅首相と杉田氏が次の標的にしたのが学術会議だった。任命を拒否された6人は、全員が安保法制など安倍政権時代の政策に反対していた。だが、理由はそれだけではない。学術会議関係者は言う。
「学術会議は2017年に『軍事的安全保障研究に関する声明』を発表し、戦争を目的とする科学の研究に反対する過去の声明を継承した。これに、軍事研究を推進したい官邸は不満を持っていた」
本誌は、声明を発表した当時の会長だった大西隆・東京大学名誉教授を直撃。すると大西氏は「声明は軍事的安全保障研究について一律で禁止しているわけではない」として、こう説明した。
「声明では、防衛省などの予算による安全保障に関わる研究について、大学や学会などでの審査やガイドラインを求めています。防衛省の予算で研究することをすべて否定しているのではありません」
事実、大西氏が学長を務めていた豊橋技術科学大学では、防毒マスクの研究で防衛省の予算を獲得した。大西氏は続ける。
「声明と同時期に豊橋技術科学大では、戦争を目的とする研究でないことなど、承認の要件をまとめた。防毒マスクの研究は自衛目的と想定され、審査のうえ学長として申請を認めました」
一方、こうした議論に消極的だったのはむしろ、当時の安倍政権のほうだったという。学術会議元幹部は言う。
「安倍政権で軍事研究についての見解をまとめる検討組織を作る動きがあったが、開催前になくなった。世論の反発をおそれたのでしょう」
「排除」ではなく正々堂々と議論すれば良かったのではないか。(本誌・西岡千史)
※週刊朝日 2020年10月30日号