不慮の窒息で亡くなる人は交通事故の2倍! のみ込む力が弱ってくる高齢者には、お餅だけでなく、あらゆる食べ物に危険が潜んでいる。どうやったら窒息を防げるのか。専門家に聞いた。(医療ジャーナリスト・介護福祉士 福原麻希)
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食べ物をのどに詰まらせて息ができなくなり病院に搬送された患者の多くが、こう話すという。
「まさか、自分が窒息するとは思わなかった」
厚生労働省の人口動態調査によると、不慮の窒息による昨年の死者数は8095人に上る。2006年から交通事故による死者数を上回り、16年からはその差が約2倍となるほど増えている。
食べ物がのみ込みにくい「嚥下(えんげ)障害」のある人が特に危ないと思われがちだが、それは間違いだ。高齢者は食事をするときいつでも窒息のリスクがある。
武蔵野赤十字病院特殊歯科・口腔外科部長の道脇幸博さん(医師)は、同院救命救急センターに搬送された症例のうち、食品による窒息と判定された107人を分析した(*1)。この調査では、約半数が到着時点で心肺停止状態になっていて、約6割が死亡した。
男女はほぼ同数で、年齢は60歳以上が85%以上だった。約7割に認知症や脳梗塞(こうそく)、パーキンソン病、精神疾患などの既往歴があったものの「自分で食事ができ、食事形態は普通食」が半数を占めた。嚥下障害の有無は記載なしを除いて、半々だった。時間帯は昼夜問わず、ほぼ同じだった。
月別では年末年始に餅による窒息がやや増えるが、一年を通して事故は起きていた。
窒息の原因となった食品はあらゆる固形物で、ご飯、おにぎり、おかゆ、餅、パン、肉類、肉だんご、刺し身、ワカメ、菓子類(ビスケット、カステラ、凍ったゼリーなど)や果物(バナナ、みかんなど)だった。どの食品で窒息しても、同じくらいの割合で死亡に至っていた。ミキサー食や流動食の人も窒息を起こしていた。
道脇医師はこう説明する。「高齢になると歩くときに転びやすくなるように、誰でも嚥下機能が低下します。しかし、本人も周囲も気づきにくい。嚥下機能低下の症状が出ていても、それが窒息につながることも知られていません」