最近の瀬戸内は日々体調に波があり、「しんどい」と言って一日中寝ていることも増えました。体のどこかが痛いと「もう死にたい。楽しみもないし、つまらない」とこぼすことも。そうかと思えば、「100歳まで生きそうね。ここまできたら100まで生きる」と、考えは日々変わります。
死生観についても、以前は「天国なんて退屈。地獄がいい。毎日どんな罰を受けるのかってワクワクする」と言っていたのに、数年前の病気で「やっぱり天国に行きたい。痛いのはもう嫌!」と変わっていました。
最近では「天国も地獄もない気がする。死んでも誰にも会えないのでは? 今更誰にも会いたくないけど」とこぼします。
横尾先生の仰(おっしゃ)る通り、極楽に行けると信じていた信者さんはみながっかりしてるでしょう。「瀬戸内寂聴と行く、豪華フェリーのあの世ツアー」にクレームがきそうです。
自分が死んだら、あの世があれば私の右足の親指を引っ張って教えてくれると瀬戸内は言います。けれど、「退屈という苦だけの所」に行ったら案外気に入って、その約束をすっかり忘れてしまいそうであてにできません。
私はあの世があると信じています。死後の世界は自然の理法や宇宙の摂理の法則に従った世界で自然に垣根や段階が形成されるだろうと横尾先生は仰いました。そうなりますと、きっと瀬戸内は私よりはるか上の段階にいるでしょうから、なんとかそこへ近づけるように努力すれば、あの世で瀬戸内に会えるのでしょうか? 会えたとしても、おばあさんになった私には気づかないかもしれません。
それでも、またあの世で瀬戸内に再会できるなら、死ぬことは怖くない気がします。
横尾先生のお察しの通り、只今(ただいま)寂庵画塾はひっそりとしております。
「もう三日坊主なの、ばれてますよ。正直に言いましょう」と私が言うと「いや、次作に取り掛かっていると言おう」と瀬戸内。次作も何も、今はまだあのイチジクの絵、一点のみです。展覧会をすると言っていましたが、このペースではいつになるやら。
まずは風邪が治るよう、瀬戸内のサポートに全力を尽くします。
瀬尾まなほ
※週刊朝日 2020年10月30日号