セトウチさんがそんな退屈地獄には「早く行きたい程の魅力」を感じていないとおっしゃるなら、こちらで、うんと長生きして絵なり、小説を書いて、現世を極楽にして下さい。あれだけ「死にたい、死にたい」とおっしゃっていたセトウチさんが、あちらの退屈地獄を想像して、気が変(かわ)られたことは、この往復書簡がまだまだ続く予感がしてきました。ついこの間まで100歳以上の人が4万人と言っていましたが、現在8万人に増えました。セトウチさんが100歳になられた時は100歳以上の人が10万人に達するかも知れません。

 最近は僕も寂庵画塾に刺激を受けて大きい絵(三畳位)を描いています。腱鞘(けんしょう)炎なので絵は殴り描きです。コロナの動物的エネルギーを味方にして描いています。利用できるものは何(な)んでも利用しちゃえ、というのがアートの精神です。もう年齢的に誰と競争することもなくなったので、自由奔放、好き勝手です。寂庵塾の思想です。

 最近、絵の話題があまりないですが、描いていらっしゃいますか。まさか三日坊主? なんで三日坊主というんですか?

■瀬戸内寂聴「今回は秘書・瀬尾が書かせて頂きます」

 横尾先生

 瀬戸内の秘書の瀬尾まなほです。今回の件はすべて、私の責任です。本当に申し訳ございません。

 保育園より急な電話があり、寂庵を留守に出来なかった私は、瀬戸内に許可をもらい、風邪をひいた息子を寂庵に連れて帰りました。瀬戸内は息子を心配し、お守りがたくさんはいった袋を枕元に置き、「はやくよくなれよ~風邪はもう治ったよ~」と自作の歌を息子に歌ってくれたのでした。その結果、風邪がうつってしまいました。

 横尾先生にお叱りを受けましたが、瀬戸内のような高齢者には風邪も命とり。まさしく自分の行動は軽率だったと反省しております。

 熱はなく、食欲はあるので、だんだん良くはなっていますが、まだ原稿を書く体力がない瀬戸内より、「まなほが代わりに書いて」とのことで恐縮ですが、今回は代わりに書かせて頂きます。

次のページ