大腸がんは、死亡者数が多いがんの一つだ。治癒のためには、手術によるがんの切除が第一選択となるが、がんのできた場所や進行度によっては、手術ができないという状況が起こる。それらに対する新たな治療法が、いま注目されている。

 新潟市在住の会社員・小山和雄さん(仮名・49歳)は、2007年6月に検診センターですすめられて注腸X線検査を受け、直腸がんと告げられた。すぐに県立がんセンター新潟病院の外科部長、瀧井康公医師のところへ紹介され、内視鏡およびCT(コンピューター断層撮影)による検査を実施した結果、進行直腸がんと多発肝転移が認められた。

 大腸がんは、進行すると離れた臓器へ転移するが、血流にのってがんがもっとも転移しやすいのは肝臓だ。初発と再発を合わせた大腸がん患者全体の約2割に、肝転移が見つかるというが、大腸がんはたとえ肝転移しても手術でがんを取り切れれば約3~5割が治るというほど、手術による治癒の可能性が比較的高いがんである。それにもかかわらず、肝転移例で実際に手術できるのは全体の1~3割に過ぎず、残りの7~9割は手術困難な高度進行がんであるという。がんが大きすぎる、数が多すぎるなどの理由で、最低限必要な肝臓の約3割を残しての肝切除手術が実施不可能だ。

 小山さんの大腸がんは、肛門へとつながる直腸の部位に5センチの大きな原発がんが、さらに肝臓には転移がんが5つあり、しかもそのうちの一つは左・中肝静脈を押しつぶすように広がっていた。小山さんは全身状態もよかったため、直腸の原発がんは同年7月に手術で完全に切除することができたが、肝転移がんのほうは、数が多く、また重要な血管にもかかっていたために手術で切除することができなかった。

 しかし、近年、抗がん剤の効果が高まったことで、ここ数年で「コンバージョンセラピー」という新しい治療法ができるようになってきた。これは、抗がん剤治療によりがんを縮小・減少させて、手術が可能になった時点で残ったがんを切除するという方法だ。小山さんは、標準治療となっているFOLFOX(フルオロウラシル・フォリン酸・オキサリプラチンの3剤併用)に分子標的薬のベバシズマブを加えた抗がん剤治療をし、半年間10クールの治療を終えた時点で治療が奏効(そうこう)し、肝臓の転移巣が小さくなった。そこで、ただちに瀧井医師は肝臓の拡大左葉切除によりがんを切除した。小山さんは、「できない」と言われていた手術ができたことを喜んだ。

週刊朝日 2013年2月8日号