死亡者数の多い大腸がん。治療法としては切除手術などが行われるが、その中でもとりわけ直腸がんの切除は、「日本人向き」の手術だという。日本赤十字社医療センター大腸肛門外科の森谷宜皓(もりや・よしひろ)医師に話を聞いた。
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直腸がんの手術は、すぐ近くに排便・排尿、性機能を支配する自律神経が走っており、膀胱(ぼうこう)などの臓器も隣接しているため、とても難易度が高い手術です。その手術は、肥満した人や骨盤の狭い人ではさらにむずかしくなります。日本の直腸がんの手術成績は欧米よりもよく、局所再発率が低いといわれますが、その理由として日本人は欧米人に比べて体系的にやせていて脂肪が少ないために、手術や側方郭清などのリンパ節切除の細かな手技がやりやすいことが考えられます。
がんは血液やリンパ液の流れにのって転移するため、転移の可能性のあるリンパ節をまとめて切除する側方郭清は、局所再発を防ぐために非常に重要です。
欧米では日本のような側方郭清はされておらず、代わりに補助放射線療法が標準治療となっています。しかし、すでに1994年、オランダでの1800例以上を対象とした比較試験の結果により、放射線療法には局所再発率は低下させるが、生命予後を延長する効果はないことが明らかになっています。また、放射線は血管やリンパ管に障害を与え、年数がたつほど重篤な副作用が現れることが多いため、なるべく安易な放射線の照射を避け、切除できるがんはできる限り手術で完全に切り取ることを第一に考えるべきです。
※週刊朝日 2013年2月8日号