つまり、自民党の幹部たちは、誰も原発に責任を持っていない。無責任なのである。
「2050年脱炭素社会」となると、10基以上の原発の新設が必要となる。野党は当然、全力を挙げて反対し、多くのマスメディアも否定的な追及をし、自民党の多くの国会議員も困惑するはずである。
なぜ菅首相は、このような厄介な宣言をわざわざやってのけたのだろうか。
私は、日本学術会議問題を想起せざるを得ない。日本学術会議が推薦した会員候補6人の任命を拒否した問題だ。この6人は、安倍前首相が政治生命を懸けて強行した安保法改正など3本の政策に反対した学者で、安倍前首相が拒否を決め、禅譲された菅新首相としては、それをひっくり返せなかったのであろう。
だが、安倍前首相が拒否を決めたとは言えず、わけのわからない説明となったわけだ。
野党にとっては願ってもない問題で、国会ではこれ一本で菅首相を攻めまくるはずだったに違いない。そうなれば、ダメージは深刻となる。
そこで菅首相は、野党が攻める目標を分散させるために、厄介とは知りながら「脱炭素社会」を宣言したのではないか。
だが、菅首相の企図ははたしてどうなるのか。
※週刊朝日 2020年11月13日号
■田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年生まれ。ジャーナリスト。東京12チャンネルを経て77年にフリーに。司会を務める「朝まで生テレビ!」は放送30年を超えた。『トランプ大統領で「戦後」は終わる』(角川新書)など著書多数