ジャーナリストの田原総一朗氏(c)朝日新聞社
ジャーナリストの田原総一朗氏(c)朝日新聞社
この記事の写真をすべて見る
イラスト/ウノ・カマキリ
イラスト/ウノ・カマキリ

 菅義偉首相の「脱炭素宣言」がさまざまな議論を呼んでいる。脱炭素社会実現への取り組みは、原発政策など厄介な問題が絡んでくるが、なぜ菅首相はわざわざ宣言したのか。ジャーナリストの田原総一朗氏が、その意図を分析する。

【この連載の画像の続きはこちら】

*  *  *

 10月26日の午後、衆参両院の本会議で、菅義偉首相の内閣発足後初の所信表明演説が行われた。

 その中で最も注目を引いたのは、「脱炭素宣言」であった。

「我が国は、2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言いたします」

 これはいわば危険な宣言である。

 現在、人類にとって最大の問題は地球環境だ。2016年に発効したパリ協定が目指しているのは、気温上昇を産業革命以前と比較して、2度未満(可能であれば、1・5度未満)に抑え込むことである。

 だが、すでに1度の上昇が生じていて、何としても今後1・5度未満に抑え込まないと、人類が生存できなくなる、とされている。

 現にヨーロッパ各国は、真剣に脱炭素社会を実現させようと取り組んでいる。その中で、日本の取り組みは遅れているわけだ。

 昨年12月にスペインで行われた国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP25)で、日本代表として出席した小泉進次郎環境相は、CO2を減らす数値を示せずに、地球温暖化対策に後ろ向きと認定された国が選ばれる不名誉な賞「化石賞」を受けてしまった。

 その意味で、脱炭素社会の実現を目指すことはとても重要である。
 だが、18年に政府が定めたエネルギー基本計画では、2030年に炭素エネルギーが56%となっていて、再生可能エネルギーが22~24%、そして原発が20~22%となっている。

 経済産業省の幹部に確かめると、原発は再稼働だけでは足りず、4基の新設が必要だということであった。

 そこで、自民党の幹部5人に、原発を新設できるのかと問うと、誰もが否定的だった。なぜ可能性がないエネルギー基本計画など作成したのかと問うと、誰もが黙って下を向いた。

次のページ
自民党の多くの議員も困惑