「患者さんの約半数は、問題なく社会生活を送れるまでに回復します。完全に回復できなくても、高血圧や糖尿病などの慢性疾患と同じように、薬などで病状をコントロールしながら上手に付き合っていけるようになってきています」(村井医師)
身近な人が統合失調症になると、「本人の努力が足りない」「育て方が悪かったからだ」などと原因探しをしてしまいがちだ。はっきりとした原因は明らかになっていないが、遺伝的素因や生活環境、ストレスなどいくつかの要因が挙げられている。しかし一つではなく複数の要因が絡み合い、脳の中で情報を伝えている神経伝達物質のバランスが崩れることで病気が始まると考えられている。
近年は統合失調症を持つ人の脳にいくつかの変化が見られることもわかってきた。
「いずれもわずかな変化なので診断に使えるレベルではなく、脳の中で何が起こっているか十分には解明できていません。しかし脳に作用する薬で統合失調症の症状が抑えられることからも『脳の病気』と言っていいでしょう」
村井医師はこう続ける。
「そもそも病気のほとんどは、生育環境に関係なく発症します。統合失調症も同じことで、本人のせいでも親のせいでもありません」
■ 症状が出てから5年ほどが治療の「リミット」
統合失調症は、脳のダメージが少ない早い時期に治療を始めると、治療成績が良くなることがわかっている。東邦大学医療センター大森病院教授の水野雅文医師は言う。
「幻覚や妄想のような明らかな症状が出てから5年くらいが『治療臨界期』と呼ばれるリミットで、長期の予後改善にはこの時期に治療をして回復を促すことが大事です。しかし日本では、治療を受けるまでに平均20カ月もかかっているのです」
受診が遅れる原因の一つは、ほとんどの患者が病気を認識していないこと。幻覚や妄想の内容が現実の世界にあるものだと信じているからだ。そのため周囲の人が病気に気づき、精神科を受診するよう促すことが重要だ。
また、統合失調症ははっきりした幻覚や妄想が現れる前に、軽めの幻覚や妄想、不眠、不安、頭痛、やる気がないなどの異変が現れる「前兆期」がある。水野医師は、前兆期の人を対象にした治療にも取り組んでいる。基本的に薬は使わず、病気の正しい知識やストレスの対処法を身につける、生活環境を整えるといった生活指導が中心だ。