あなたは「角川」という言葉から何を連想するだろうか。「文庫」という人もいれば「映画」という人もいるだろう。そして、なかには「アイドル」という人もいるかもしれない。
1976年、角川書店の2代目社長として、映画界に進出した角川春樹は自社の文学作品と映画製作とを連動させるメディアミックス戦略で旋風を巻き起こした。この2年後には、映画「野性の証明」で当時14歳の薬師丸ひろ子をデビューさせ、人気者にする。82年には、原田知世(オーディション時14歳)と渡辺典子(同16歳)を見いだし、こちらも主演級の女優に育てた。
この3人は「角川三人娘」と呼ばれ、80年代のアイドルブームにおいて一大勢力となるのである。
それから約40年、彼女たちは今も活躍中だ。薬師丸はNHKの朝ドラ「エール」でヒロインの母親役として存在感を発揮しているし、原田は「The Covers」(NHKBSプレミアム)や「サワコの朝」(TBS系)などに登場して、ファンを懐かしがらせた。
また、10月に公開された映画「みをつくし料理帖」には薬師丸と渡辺が出演している。これは角川が最後の監督作にすると宣言した作品で、石坂浩二をはじめとするかつて角川映画に主演した人たちも多く出演。このふたりも華を添えたかたちだ。
では、そんな角川三人娘とは何だったのか。
アイドルとしての全盛期、彼女たちは他のアイドルとは一線を画す存在だった。松田聖子や中森明菜らが3~4カ月の短いサイクルでシングルを出していたのに対し、あくまでも女優業が基本であり、それでいて、自身が主演する映画の主題歌はガッツリ歌うというスタンス。これはかつての日活が石原裕次郎や吉永小百合で成功させたスターシステム(何よりもスターありきという手法)に、角川が影響を受けた結果でもあるだろう。
いわば、反動的なものでもあったわけだが、世間の目にはそれが新鮮に映ったりもした。象徴的なのは、角川アイドルによる最初のヒット曲「セーラー服と機関銃」だ。同名映画の主演女優・薬師丸のデビュー曲でもあり、合唱部経験のある彼女の生真面目な歌唱法は王道かつ古風という印象をもたらした。