例えば、4年前の大統領選では、民主党の候補者だったヒラリー・クリントン氏にかけられた疑惑の再捜査の影響もあった。国務長官時代の私設メールサーバー問題について、投票日の11日前になってFBIの捜査の再開が公表されました。これが、大統領選にどんな影響がどれだけあるのか、事前に、誰がパキッと数字で示すことができたでしょうか。
こうした不確実な要素を含む大統領選の行方について、わかりやすい結論を知りたい、誰かに教えてほしいという読者や視聴者の思いがある。そうした読者・視聴者の欲望に寄り添うものを、メディアが求めすぎるのが問題なのです。
メディアは識者に「何パーセントの確率でどちらが勝つのか」とよく尋ねますが、聞かれた識者は困ってしまう。数字は根拠を基に示すべきですが、感覚値を「何割か」という数値的な表現として求められるとプロとして非常に困りますね。
――では、「プロ」は世論調査などの数字をどのように読むのでしょうか。
ある問題が起きたときに、人はどのように動くのか、心理と行動のメカニズムのようなものを知ったうえで、数字を読むとおもしろいと思います。
プロであれば世論調査は上下するトレンドで見るでしょう。どちらに勢いがあるかでその先の傾向を予測する。社会が多様なアメリカでは各調査に一定の偏りがあります。だから「両候補のあいだにあいた差は3,4ポイント割り引いて考えよう」などと感覚知を加えて判断します。そうした感覚知は平均された表の数字には反映されにくいのです。日本のメディアが世論調査の結果として引用する政治専門サイト「リアル・クリア・ポリティックス(RCP)」は私も参考にしますが、それは各調査の平均値だということも分かっておく必要があります。
――今回も前回も世論調査には表れない「隠れトランプ」の存在が話題になり、今回は「隠れバイデン」などという表現も使われました。
「隠れ」の定義によりますね。リーチアウトできなかったという意味で言えば、隠れトランプは常にいる。回答者が嘘をつくという意味であればまた別の分析が必要になります。また、すべての調査は一面の真実です。つまり、すべての調査は特定のバイアスがかかっているものなのです。オンラインか、直接の聞き取りなのか、調査方法やサンプルの違いによっても「一面」の性質が変わってきます。
客観的な数字が世論調査の結果しかないので、メディアはそれを判断材料にせざるをえないのはわかります。でも、世論調査という物事のある一面だけを測ったものを参考にして当選者を「決め打ち」するのはプロフェッショナルではないと思います。