室井佑月・作家
室井佑月・作家
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イラスト/小田原ドラゴン
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 作家・室井佑月氏は、メディアや政治など社会にあふれる大人のいじめに苦言を呈する。

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 10月23日付の毎日新聞によれば、「全国の小中学校・高校などが2019年度に認知したいじめは前年度比6万8563件増の61万2496件で過去最多だった。(中略)文科省は『積極的に把握しようとする動きが広がったため』と評価する」。

 積極的に調査したから増えたって? じゃあ、なんで、

「ただ、被害者の安全が脅かされたり、学校へ通えなくなったりする『重大事態』は121件増の723件と過去最多を更新し、早期対処し切れていない実態も浮かぶ」

 酷(ひど)さが加速されてるの?

 2013年に「いじめ防止対策推進法」が施行された。その頃から問題であった子どものいじめは、特に小学校の伸びが大きく、法施行前の4倍以上に達したという。

 なぜ、子どものいじめは無くならないのか? それは子どもが手本とする大人たちが、いじめが大好きだからじゃないのか。

 政府と違った意見をいう学者たちを学術会議から見せしめ的に排除したり、自民党総裁選に立候補した石破茂議員を徹底的にのけ者にしたり、沖縄だけに米軍基地の負担を押し付けたり、外国人技能実習生たちの7割を超える事業所で違法な時間外労働や残業代の未払いなどの違反をしたり、犯罪でもないのに芸能人の不倫を執拗(しつよう)に叩(たた)いたり……大人の世界のいじめをあげていったらキリがない。

 いつからだろう、始終テレビでいじめを見せられている気がするのは。これが現実だ。吐き気がする。

 本質的な問題に触れず、いじめを垂れ流すメディアはわかっているのだろうか。そういう世の空気作りに加担していると、いずれ自分たちがいじめられる確率は高くなるってことを。

 だって、自分たちがいじめを容認・増長させているのだ。

 格差が広がり、なにかあると自己責任といわれる世の中において、自分が負けないようにするのにみな必死だ。弱い人の立場になって考えてみる余裕を失った人は多い。

 増えたのは、自分たちより苦しんでいる人がいると、それを見て自分はまだまだ大丈夫と安心する人。

 生活保護受給者を低賃金労働者に叩かせた番組をくり返し見せられたときから、なにが変わっただろう。

 そういえば、菅首相は目指す社会像として「自助・共助・公助」を掲げている。なぜ首相という立場なのに「公助」という言葉を最後とするのか?

 これをいじめに対する言葉として置き換えてみて欲しい。その冷たさがわかる。

 公の立場であるものがまず対応する姿勢がない。そんな世の中である。

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

週刊朝日  2020年11月20日号