血圧が上がって一番心配なのは脳内出血だが、1960年ごろからその数は一貫して減っている。栄養状態がよくなり、血管が丈夫になったことが考えられる。もちろん血圧が高すぎる人は治療が必要だが、薬によって脳梗塞が増えているのであれば本末転倒だ。
コレステロールの項目も、数値が高いと心筋梗塞になるリスクが高まるとして、正常値が厳しく設けられている。だが、大櫛氏が説明する。
「現在では、血中コレステロール値が高いと動脈硬化を起こすという説は否定されています。むしろ、高めの人のほうが長生きすることがわかっています。米国政府は15年に卵などのコレステロール摂取制限を撤廃しています」
健診の死角となるのは、血圧やコレステロールなどが正常値ならば安心してしまうことだ。
精神科医で内科医でもある和田秀樹・国際医療福祉大学大学院教授が語る。
「血液検査が正常でも動脈硬化を起こす人はいます。心筋梗塞が心配ならば、5年に1度くらい心臓ドックを受けて、冠動脈の狭窄(きょうさく)が起きていないか調べるほうが合理的です。そもそも日本は先進国の中で心筋梗塞が最も少ないのです。血圧やコレステロール値にナーバスになりすぎです。正常値信仰はそろそろやめるべきです」
“悪玉”とされるLDLコレステロールは、神経伝達物質のセロトニンを脳に運ぶ働きに関与するなど、精神医学から見れば“善玉”なのだという。
次に血糖値。肥満などが原因の2型糖尿病は放置していると、腎症や心筋梗塞、脳卒中、網膜症などの合併症を引き起こす。
前出の大櫛氏は、健診の中では、血糖値は最も重要な検査項目だという。
「糖尿病が怖いのは、インスリンが減っていくと元に戻せないことです。糖質過剰食が主な原因ですから、米やパンなど炭水化物(糖質)を制限するしかありません。高血糖状態を早く見つければ、1日3食のうち夕食だけ炭水化物を抜くとか、軽い制限で済みます」
糖質制限でも血糖値が下がらなければ、インスリンを注射するなどの治療が必要になってくる。血糖値の正常値はHb(ヘモグロビン)A1cが4~5.5%だが、前出の和田氏は治療による下げすぎを懸念する。