秋の健康診断で人間ドックやがん検診を受ける人もいるだろう。そこで、数値が高い、がんが見つかった、となればすぐに治療したいと思うところ。だが、検査には有効性に疑問があるものや、かえって“害”になりかねないものもあるという。本誌が取材した医師たちのアドバイスを参考にしてもらいたい。
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まずは、生活習慣病に関連するところから。
大半の人が気にする数値。「高いと危険」と考えがちだが、実は日本で定められている値は欧米などとは基準が違う。過度に下げることで別の病気を引き起こす危険もあるという。
血圧は「正常値」の範囲が厳しすぎるという指摘がある。日本高血圧学会は昨年、正常血圧の範囲を引き下げた。74歳以下で収縮期130mmHg/拡張期80mmHg未満(75歳以上は140/90未満)を降圧目標としている。実に、日本の成人の約4千万人が高血圧の対象者となる。
大櫛陽一・東海大学名誉教授がこう指摘する。
「例えば、英国の治療開始基準は、最高血圧が160以上で心筋の肥大など臓器障害のある人、です。日本のように正常値を下げれば当然、治療対象者は増えてしまいます。年を取ると血管が硬くなり、加齢とともに血圧が高くなるのは自然なことなのです」
かつて、日本人の年齢別血圧は「最高血圧=年齢+90」までが正常とされていた。大櫛氏が全国70万人の健診結果をもとに、健康な人の最高血圧の上限を計算した結果、75歳以上は男女ともに165くらいで一致する。
高血圧学会も2000年のガイドラインでは、「60代140」「70代150」「80代160」などと、年齢ごとに正常値を設定していた。ところが、現在の基準では80代は血圧を20も下げなくてはならなくなった。大櫛氏が続ける。
「降圧剤を飲んで血圧を20以上も下げると、10程度に下げたケースと比較して、死亡率が1.5倍になるという製薬会社のデータがあります。薬で無理やり血流を抑えるので、脳梗塞(こうそく)が増えるのです」