「夫婦の会話のきっかけになるかもしれない」と思ったBさんは、帰宅後さっそく妻に提案した。嫌がられるかと思いきや、意外にも妻は「おもしろそうだね。やってみようよ」と、Bさん以上に乗り気。毎朝1枚ずつ、互いにカードを引くルールでゲームが始まった。
カードに書いてあるワードを伝えるにも、まずは会話がなければ始まらない。Bさんは最初何を話したらいいかもわからなかったが、ある日、妻が同じマンションの住人の犬を預かった話を始めたところから会話がスタート。その日以降、毎回その犬の話題を導入にして夫婦で会話をするようになったという。妻の会話運びがうまいのか、それとも自分のくじ運が悪く、使いにくい言葉のカードばかり引いてしまうからなのか、妻に先に言われてしまうことがほとんど。「甘えてくれて嬉しいよ」というカードを引き、「こんな言葉、今さら照れくさくて言えないよ……」と朝から頭を抱えたこともある。しかし、「このカードがなかったらそもそも夫婦で会話すること自体がなかったし、ゲームだとわかっていても、ほめられるのは悪い気はしない」とBさん。夫婦関係を見直す、いいきっかけになったようだ。
このカードのブックレットを監修した臨床心理士の杉野珠理さんは、「形式的であってもポジティブな言葉をかけ合っているうちに、お互いに本当にポジティブな思考や行動に変わっていき、関係も良好になっていきます。また、ポジティブ思考になれば、幸福度もアップすることが、過去の研究でも明らかになっています」と話す。
なぜ、ポジティブな言葉をかけ合うことで、人間関係が良好になるのだろうか。
「人からほめられて気分がよくなることを、心理学では『社会的報酬』と言います。これは人類が進化の過程で獲得してきた性質で、脳が急激に進化した原始の時代、集団で助け合う種が生き残ったからだといわれています。『ほめる』という行為は、相手を認めて『敵ではない』と示すことですから、ほめられることで助け合う仲間であると確認した時に心地よく感じるよう、脳が進化してきたのです。つまり、ほめられているうちに相手を味方だと感じ、ひいては相手を好きになるという効果があります」