経済学者で同志社大学大学院教授の浜矩子さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、経済学的視点で切り込みます。
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米大統領選が、民主党のバイデン前副大統領の勝利に終わった。トランプ親爺さんが、なおも、やれ不正だやれ訴訟だと騒いではいる。だが、さすがに結果転覆の余地はなさそうだ。
分断から和解と融合へ。勝利宣言の中で、バイデン氏は盛んにこの点を強調した。それは当然だ。米国社会を二分したこの選挙の傷痕は、いまなお生々しい。
赤対青。これが、今回の選挙の中で鮮明になった分断の一つの側面だ。赤は共和党の色。青は民主党の色。分断のもう一つの側面が白対黒だ。白人対黒人の哀しき対立の構図である。
赤と青を混ぜると紫になる。赤と青の種類や濃さによって色調は変わる。だが、両者の混合が紫色をもたらすことは間違いない。紫はいい。高貴な色だ。次に、白と黒を混ぜると灰色になる。灰色というとあまりイメージはよくないかもしれない。だが、灰色には落ち着きがある。
さてそこで、赤と青を混ぜてつくった紫と白と黒を混ぜてつくった灰色をさらに混ぜると何色になるか。そこに現れいでるのは、ラベンダー色だ。プロのカラリストにご教示頂いた。
筆者は、結果が「ピンク・バイオレット」と出ることを密かに期待していた。なぜなら、これが筆者のヘアカラーの名称だからだ。だが、この邪心は専門家によって躊躇なく却下された。
筆者的には残念だが、アメリカ社会の四つの分断色を融合するとラベンダーになるというのは、実に素晴らしい。ラベンダーは色も香りも爽やかだ。醜悪政治の4年間でよどみ切ってしまった米国の社会的大気を清浄化するには、うってつけの色だ。
しかも、ラベンダーには癒やし力が備わっている。ペストのパンデミックが中世欧州を襲った時、人々はラベンダーの薬効を頼った。空気を洗浄するためにラベンダーを燃やした。抗菌作用を求めて身に着けて歩いた。多くの修道院で、ラベンダーを薬草として栽培していた。これらのことについては、介護のプロにご指摘頂いた。
副大統領に就任予定のカマラ・ハリス氏には、ラベンダー色のパンツスーツを着てもらおう。バイデン新大統領にも、ラベンダー色のネクタイとポケットチーフをしてもらおう。
浜矩子(はま・のりこ)/1952年東京都生まれ。一橋大学経済学部卒業。前職は三菱総合研究所主席研究員。1990年から98年まで同社初代英国駐在員事務所長としてロンドン勤務。現在は同志社大学大学院教授で、経済動向に関するコメンテイターとして内外メディアに執筆や出演
※AERA 2020年11月23日号