エッセイスト 小島慶子
エッセイスト 小島慶子
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ホワイトハウス周辺でバイデン氏の勝利を祝う人たち。11月7日、アメリカ・ワシントンで (c)朝日新聞社
ホワイトハウス周辺でバイデン氏の勝利を祝う人たち。11月7日、アメリカ・ワシントンで (c)朝日新聞社

 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

【写真】ホワイトハウス周辺でバイデン氏の勝利を祝う人たち

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「男性デフォルト型」思考をやめよう。マッチョを演じることで地球が救われることはない。今年2月、ニューヨークのニュースクール大学で演説したアントニオ・グテーレス国連事務総長の言葉です。

 アメリカ大統領選挙では、マッチョな男らしさに執着するトランプ大統領の幼児性を世界が目の当たりにしました。マスクをするのは臆病者とせせら笑い、自らも感染。全米で24万人以上もが命を落とし、なおも感染は広がり続けています。残された時間がわずかな気候危機への対応でも、このままトランプ大統領が幼稚な男らしさにこだわって地球温暖化を認めようとしなければ、やはりマッチョなブラジルのボルソナーロ大統領とともに人類を滅ぼす方向へかじを切ってしまうのではないかと暗澹(あんたん)たる気持ちになりました。

 バイデン前副大統領とハリス上院議員の勝利演説を聞いて、グテーレス氏の言葉を改めて思い出しました。勝利演説で前面に押し出されたのはフェミニズム。構造的な人種差別や性差別をなくそうという強いメッセージでした。分断した社会において、強さとは人の声に耳を傾け、希望を与えることだと再認識しました。知性と共感こそが力なのだと。

 陳腐な男らしさとは正反対の反応を示したのは作家・社会活動家でCNNの政治コメンテーターのヴァン・ジョーンズ氏。差別を容認するトランプ政権が終焉(しゅうえん)することを受け、これで人権が尊重される社会を取り戻せると涙ながらに語り、息子たちに呼びかけました。差別に苦しむ人々を思い、大きな体で声を震わせ、率直に感情を表す姿は、強く胸を打ちました。

 副大統領となるハリス氏が“女性らしい”リーダー像を書き換えるであろうことにも期待しています。彼女の笑顔や服装ではなく、その力強い言葉に注目しましょう。

小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。『仕事と子育てが大変すぎてリアルに泣いているママたちへ!』(日経BP社)が発売中

AERA 2020年11月23日号