菅義偉首相がぶち上げた「CO2排出ゼロ宣言」が波紋を呼んでいる。世界から後れをとっていた再エネ普及もこれで進むかと思いきや、隠れた意図は「原発復権」だという見方もある。
【日本の電源別発電量割合】2020年と2030年度目標を見る
「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言いたします」
菅義偉首相は10月26日の所信表明演説で、今後30年で温室効果ガスの排出を実質ゼロにするという目標を掲げ話題を呼んだ。だが、実現に向けての具体策は語られていない。環境問題について目立った発言をしてこなかった菅氏が突如、踏み込んだ理由は何だったのか。元経産官僚の古賀茂明氏がこう話す。
「ポスト・コロナの経済復興は『デジタル化』と『グリーン』でというのが今や世界の常識。ところが、菅氏は元々環境問題には関心がなく総裁選公約では『グリーン』が抜けていた。後から気づいて、慌てて『脱炭素』を所信表明に盛り込んだというのが実情だろう」
背景として考えられるのが、米国の大統領選だ。10月時点で優勢とみられていた民主党のバイデン氏は、トランプ大統領が離脱した「パリ協定」への復帰を明言し、50年までにCO2排出量を実質ゼロにすると一足先に宣言。一方の日本は、昨年のCOP25(国連気候変動枠組み条約締約国会議)で排出ゼロの目標年次を提示しなかったことで海外のマスコミの集中砲火を浴び、小泉進次郎環境相が大恥をかいた。
「各国は軒並みゼロ達成の年次を掲げていて、日本は先進国の中でも飛びぬけて遅れているという評価を受けてきた。今まではトランプ政権の陰に隠れていられましたが、今後は日本の遅れがクローズアップされる。これではまずいと、とりあえず50年ゼロを宣言したのです」(古賀氏)
日本は本当に脱炭素を実現できるのか。鍵を握るのは太陽光、風力などの再生可能エネルギー(以下、再エネ)だ。国のエネルギー政策の方向性を示す「エネルギー基本計画」を改定する議論が10月に始まっており、ここで再エネや火力発電、原発などの比率がどう扱われるかが注目される。