驚くべきは、柳ジョージの「祭ばやしが聞こえる」のテーマが選ばれていることだ。これは77~78年に放送された、萩原健一主演の同名テレビドラマの主題歌として親しまれた曲。柳のしゃがれた歌声と、しっとりとした曲調、ホーンがウェットな風合いを醸し出すAORポップスの名曲と言っていい。2011年に63歳で亡くなった柳ジョージだが、キャリアの最初期にはグループサウンズ時代の人気バンド、ゴールデン・カップスの後期メンバーとして活動した。そんなブラック・ミュージック指向のルーツを、今日レアグルーブとして再評価されるこの曲から感じることもできる。
クルアンビンのメンバーは去年、単独で来日公演を行った際、東京の友人宅でこの曲を知ったのだという。たまたま聴いて夢中になった彼らは、このコンピレーション・アルバムの選曲をしている最中だったこともあり、すぐさまレパートリーに入れることを決めたようだ。
70年代後期に活動を開始した韓国のサヌリムの「Don’t Go」が選ばれているのも注目だ。サヌリムはキム3兄弟を中心としたベテランロックバンドで、日本にも熱心なリスナーが多い。サイケ、ソウル、フォークなどの要素を取り込んだ彼らの作品は、人間臭くエネルギッシュ。クルアンビンのメンバーがソウルを訪ねた時、中古レコード店でこの曲の入ったアルバムを見つけたという。
彼らは万事このように、熱心なリスナーとしての経験を重ねていく中で、刺激的に新たな音楽と出合っている。音楽ファンとしての邪気のない息吹が選曲を豊かなものにしていると言っていい。他にもパキスタン、エチオピア、ベラルーシ、ナイジェリア、スペイン、スウェーデンといった国のアーティストがセレクトされている。カルロス・サンタナがアリス・コルトレーンと組んだ曲も含まれるなど有名無名を問わずチョイスされている。一方、クルアンビン自身によるクール&ザ・ギャングの「サマー・マッドネス」のカバー(新録)も含まれていて、こうした世界のポピュラー音楽の歴史にしっかりと自分たちの名も刻もうとする姿勢が感じられるのもいい。
この「レイト・ナイト・テイルズ」というコンピレーション・アルバムは、01年にスタートしたシリーズだ。これまでに、アークティック・モンキーズ、ザ・シネマティック・オーケストラ、フランツ・フェルディナンド、ベル・アンド・セバスチャン、ボノボといった人気アーティスト、バンドが選曲してきた。テーマはタイトル通り、深い夜のムード。いわば“夜聴きコンピ”として知られる人気シリーズなのだ。だが、このクルアンビンの選曲ほどテーマに合った作品はないだろう。実際、ここで選ばれている曲は、街が寝静まった漆黒の風景にぴったりなナイトミュージックばかりだ。
クルアンビンがそうした音楽を愛し、自分たちもまたそういう音楽づくりをするバンドだということが、このアルバムをいっそうメランコリックなものにしている。クラブやライブに足を運べない今、ぜひこのアルバムで世界の夜へと思いを馳せてみてほしい。
(文/岡村詩野)
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