最近のデジタル庁に関するニュースを見ていて心配なことがいくつかある。
まず、来年9月創設という目標が遅すぎる。世界から周回遅れの日本の現状を考えれば、危機感がなさすぎる。私が、ダイエーやカネボウの再生を手がけた産業再生機構の創設に関わった時は、2002年11月に設立準備室を立ち上げ、翌年5月に業務を開始した。それに比べるとかなり遅い。
こうなるのは、菅総理の本音を官僚が嗅ぎ分けているからだ。彼らは、菅総理にデジタル化の本当の意味などわからないと知っている。携帯料金値下げとハンコ撲滅以外は、来年9月の総裁選に向けたパフォーマンスだということも見抜いた。9月の自民党総裁選直前に「デジタル庁ついに創設!」という見出しが大きく躍れば、総裁再選を狙う菅総理は喜ぶという計算でのんびりやっているのだ。
次に心配なのは、政策の内容。今のところ、各省庁のシステム関連の業務の効率化が今までよりも進むことくらいしか期待できそうにない。特に、喫緊の課題であるIT人材の育成などはこの役所の所管には含まれない。それらも含めて、広範囲に及ぶIT関連の政策の大半は、経済産業省、総務省、厚生労働省、文部科学省などがバラバラに推進し、それをデジタル庁が「ホッチキス」で束ねるだけになりそうだ。
これでは、デジタル化で産業や社会の課題を解決し、構造を変えて新しい世界を切り開いていこうというDX(デジタルトランスフォーメーション)の本来の目標は達成できない。菅総理の頭にそうした絵がないのだから仕方ないが、このままでは、世界との差はますます拡大するだけ。お先真っ暗ではないか。
さらに、深刻な懸念は、デジタル庁の人材の問題だ。報道では、定員が500人規模、民間人は100人程度で、残りの数百人はいろいろな役所から異動してくるのだという。お役所人材が過半の組織になると考えただけで頭が痛くなる。
幹部級に民間人がどれくらい入るかもわからない。次官級は民間人という報道はあったが、そんな程度では話にならない。前述の産業再生機構設立時は、トップ3人が民間人。幹部クラスでも執行役員の私(経産省から出向)を除いて全員が民間人だった。それ以外には課長補佐クラスのキャリア官僚が4人、あとは総務・経理などをサポートする官僚が若干名いるだけだった。