その一方で、もう一つの思いもある。

「私が怒りを込めて『こんな時代』!と叫んでも、別にこのままでもいいんじゃない?と思う人もいるでしょう。それはそれでいいんですよ。必ずしも賛同してくれなくても『こんな時代』って『どんな時代だっけ?』って思ってくれれば。立ち止まって、考えてくれるきっかけになれば十分です」

■「自分探し」なんてもういらない

「『人生は動詞である』。作者は忘れてしまったけれど、海外のアンソロジーの中で見つけた言葉です。いい言葉だなあと思っていたけれど、75歳になった今、より実感しています。体を動かす、仕事をする、家事をする。そういう日々の断片を繋ぎ合わせることが、生きているということ。人間は意識と無意識の組み合わせで生きていますよね。例えば、デモや集会に参加して、社会に向かってこぶしを振り上げる、この瞬間も私です。でも、そのあとに熱くなり過ぎた頭と体を冷やそうと、冷奴を食べようとする自分もいる。『やっぱり絹ごしがいいわよね』なんて(笑)。バカみたいだけど、そんな自分も自分であり、意識しようとしまいと、日々動いている。でもね、そんな自分と、ちゃんと向き合ってきたかしら?と思うんですよ」

 学校でも会社でも家庭でも、人は他者と向き合うことには必死になるけれど、自分のことは、どこまで理解できているだろう。自分はどうなりたいのか。何が嬉しくて、何が悲しいのか。改めて自問すると、案外、わからないことに気づく。

 さらに言えば、言葉の持つ意味は常に生まれ変わり続けている。「豊かさとは?」「人生とは?」。時代の価値観に翻弄され、自分を鼓舞してきた人生。ふと立ち止まって見直してみると、己に課してきた価値観はもう古びているのかもしれない。

「成功や豊かさって何? どんな意味や価値があるのかな? 価値があると思うなら大事にすればいい。でも、違うと思うなら考え直すとき。無用なものを背負っていたことに気づけるかもしれない。メディアにあふれる『自分探し』『自分らしさ』っていうキーワードももう不要。私は私、それでいい。世界中どこへ行ったって、どんな人生を選んだって『私の人生』を生ききればいいのではないでしょうか」

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落合さんが自分と世に問いかける「生き続ける覚悟」