国内では賛否両論ありながらも、実質的に交渉への参加を表明したTPP(環太平洋経済連携協定)。コメの自由化を最大の焦点としていた国際交渉「ガット・ウルグアイ・ラウンド」(86~94年)を担当した塩飽二郎氏が、当時の秘密交渉の経験からアドバイスをした。

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 私たちの「秘密交渉」では、コメの関税化を6年間猶予する代わりに、日本の最低輸入義務を国内消費の4%から8%に毎年増やすことで合意しました。

 この合意案を、ガットで農業分野を担当するカナダ人議長に「調停案」として提示するよう頼みました。日米が提案するより受け入れられやすいと読んだからです。強硬なECに対しては、オメーラが担当者のブリュッセルの自宅まで行って説得しました。

 TPPでも米国の主張をすべて受け入れる必要はありません。ただ代償は必要です。コメの関税をゼロにしない代わりに輸入枠を広げるとか、他の品目も含めトータルで勝負する。そのためには必死に情報収集しないといけません。

 各国の代表10人くらいと夕食をとる際、英語で会話しながら、机の端のほうに座っている人たちの会話も耳に入れないといけないのがつらかった。日本に不利な話をしていたら、即座に反論しないといけませんから。本当に神経をすり減らしましたね。

週刊朝日 2013年3月15日号