2015年の相続税の増税が目前に迫っている。税対策に関して専門家に聞いてみると、夫の死後、妻が精神的に不安にかられるケースがあり、中にはそれが対策の障害になることもあるようだ。

 土地をめぐる相談などを数多く受けてきた埼玉県川口市の菅家尚子税理士は、こう語る。

「夫を失い、財産の多くが子どもにいってしまうと、残された女性は『もうお払い箱なの? 一体私の人生は何だったの?』と心細くなりがち。居場所がなくなるかもしれない、という女性の不安を解くことが大事です」

 夫が死んだことで、「この先は嫁さんにいじめられるのでは」などと被害意識が生まれ、相続で一歩も引かなくなる事例もある。将来への不安や孤独が、妻を頑固にしてしまうのだ。

 女性の場合、さらに税理士が困るのが、ヘソクリを隠し続けられる時だ。聞き出そうとすると、泣き出してしまう人もいるという。

「相続を扱う場合、資産を全部出してもらうことが基本です。だが、なかなか理解してもらえない」
「郵便貯金なら資産を隠せる、といった誤った情報を信じている場合もある」

 などと、苦労話を語る税理士は少なくない。なかには、資産を金塊にしている人もいるそうだ。「資産を隠しやすい」などという誤った情報を信じているためらしいが、そんな方法で隠せるような時代ではない。換金するときに記録が残り、最終的に隠し資産が税務署にばれる。税理士の面目も丸つぶれになる。

 数多くの相続ケースを見てきた大森史仁税理士(甲府市)が言う。

「時代が変わり、『旦那さんだけがお金を持っている』というケースは少なくなりました。それだけに一層、正確な資産の把握が重要になっている」

AERA 2013年3月11日号