地球に向けてカプセルを分離したはやぶさ2(イラスト)。再び地球を後にし、地球と火星の間を回る別の小惑星を目指す(illustration/池下章裕)
地球に向けてカプセルを分離したはやぶさ2(イラスト)。再び地球を後にし、地球と火星の間を回る別の小惑星を目指す(illustration/池下章裕)
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 小惑星リュウグウ内部の物質を持ち帰る計画を成功させた「はやぶさ2」。6年間、約52億4千万キロに及ぶ旅を成功させたはやぶさ2本体だが、そのまま休む間もなく、今度は別の小惑星「1998KY26」に向かい、2031年の到着を目指す。AERA 2020年12月21日号では、この「はやぶさ2」の未踏の長旅を支えるエンジニアを取材。今回のミッションへの思いなどを聞いた。

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 再び探査の旅に出たはやぶさ2。未踏の連続ミッションを支えるのが、心臓部ともいえるイオンエンジンだ。JAXAの指導のもと、設計・製造を請け負ったNECの担当責任者が碓井美由紀さん(36)だ。

 イオンエンジンは、推進剤であるキセノンをイオン化して秒速30キロの高速で噴射することで推進力を生み出す。燃料を燃焼させたエネルギーを利用する化学推進に比べて効率よく推進力を得ることができるため、必要な推進剤が大幅に少なく、長距離を航行する惑星探査に向く。

 碓井さんは東京大学大学院時代、修士課程の2年間をJAXAで過ごし、イオンエンジンの研究に没頭。08年にNECに入社後はメーカーの立場で開発に取り組み、イオンエンジンが最適に動作するよう様々な研究・調整を行い、完成させた。はやぶさ1号機の知見や経験を学びながら推進剤の入れ方を工夫することで推進力を2割ほど増強したという。

 最もはらはらしたのは、打ち上げから約1カ月後の14年12月末。最初のイオンエンジンの動作確認を行ったときだ。

「打ち上げの振動などで故障していないか、宇宙の環境で本当にちゃんと動いてくれるのか、一番緊張しました」(碓井さん)

 ここで動作しなければ計画はジ・エンド。無事動作したときは心から安堵したという。その後もトラブルなく、想定通りの推力を維持。大学院生時代から14年間、人生の3分の1を超える歳月を費やしたミッションを果たした充実感は何物にも代えがたい。この間、結婚し、2人の子も授かった碓井さんはこう振り返った。

「長かったような気もしますが、プロジェクトのスケールを考えると、あっという間だったようにも感じます。多くの人に支えられ、苦労が実を結んだのは感無量です。今後への自信にもなりました」

 残る燃料は約半分。追加ミッションをクリアできれば、はやぶさ2の総飛行距離は100億キロに達する見込みだ。(編集部・渡辺豪)

AERA 2020年12月21日号より抜粋