次期日本銀行総裁に、財務省出身の黒田東彦(はるひこ)アジア開発銀行(ADB)総裁(68)を充てる人事案を安倍内閣が国会に提示した。大蔵省(現・財務省)の2期上で、財務官としても「先輩」にあたる榊原英資・青山学院大学教授は、「黒田新総裁」を次のように語った。
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アジア通貨危機が起きたあと、インドネシアやタイなどによく出張しました。タイで始まった通貨危機は、インドネシア、フィリピン、韓国などに波及し、国際情勢は非常に不安定でした。彼は、このときにアジア諸国との関係を作り、ADBの総裁に就任してからは、その経験を生かしたと思います。
日銀総裁になれば、ADBで築いた人脈が生きるでしょう。アジアの経済発展を目的に設立されたADBの総裁は、各国のトップや政府要人とのパイプができます。
いまの日銀総裁は、国際派でなければ務まりません。日銀の業務の影響はいまや、国内だけにとどまらないからです。たとえば、金融緩和をすれば、為替に大きく影響を及ぼすことになります。また、各国の中央銀行総裁と議論するために、海外の会議にも頻繁に出席しなくてはいけません。リーマンショック以降、そうした流れは非常に強くなりました。
過去を振り返ると、財務官経験者が日銀総裁に就任したことは、一度もありませんでした。総裁になったのは、国の予算などを編成する主計局出身の事務次官経験者でした。昔はそれでよかったのです。
しかし、今や国際問題に通じていなければ通用しません。日本国内で優秀でも、世界的な経験や人脈を持っていないからです。国際派の彼は、時代の流れに適した総裁になるのではないでしょうか。
※週刊朝日 2013年3月15日号