「アメリカに2年間留学していたころ、現地の友達から日本の文化について聞かれて、全然知らない自分に気づきました。恥ずかしくて……」
もともとタレント業に興味があったので、帰国後は大学に進学したうえで俳優養成所に通った。そこで、講師として来た落語家・金原亭世之介さんの人情噺「文七元結」を聴いて感動。師匠の独演会に向かい、弟子入りを頼み込んだ。
彼女の希望を聞いたとき、どう思ったか。世之介さんに尋ねると、
「落語だけでなく他の分野でもやれる、幅広い売り方ができる子だと感じました。即決。名前もすぐに決めました。私はお客さんから『よのちゃん』と呼ばれている。彼女には『ののちゃん』と親しまれてほしい、と」
こうして金原亭乃ゝ香(26)が誕生した。2016年1月のことである。
東洋大学のミスコンテストで、審査員特別賞を受賞した美貌。それゆえ寄席では、前座の彼女が座布団を整えるために姿を見せるだけで、明らかに空気が変化したという。
注目を集めるのは良いが、基本的に落語は男社会。数多ある噺も、男が演じるという前提で作られたものばかりだ。
「古典でも、怪談や人情噺の中に女性や子どもが出てくるものがあります。女性ならではの表現で、そういう噺をしっかりできるようになりたいです」
昨年11月に二つ目に昇進。持ちネタは30ほど。新たな表現で、寄席の人々を江戸時代に連れていってほしい。(本誌・菊地武顕)
金原亭乃ゝ香(きんげんてい・ののか)/1994年、神奈川県生まれ。東洋大学在学中から女優として舞台やCMに出演。2016年、金原亭世之介に入門し、大学生活のかたわら修業。1年次に東洋大のミスコンで審査員特別賞を受賞したこともあり「ミスコン出身落語家」と話題に。昨年11月、二ツ目昇進。鈴本演芸場、新宿末廣亭、浅草演芸ホール、池袋演芸場で昇進披露目。1月31日、末廣亭「落協レディース只今参上!」出演。
※週刊朝日 2021年1月15日号