■ビギナー手引きは若手
九龍:ここ数年、講談を含む寄席演芸で若手にもスポットライトが当たるようになりました。
伯山:昔は集客力を含めて、中堅にならないと一人前と認めてもらえなかったんですが、ビジネスモデルが変わってきました。これは特定の誰かということでもないんですが、以前ならなかなかチケットが取れない中堅やベテランの落語家さんでも、コロナ禍でお客さんが減っている印象があります。
一方、僕も含めて若手の興行は割と満員です。これってつまり、コロナ禍で年配の方が二の足を踏む状況がある中で、新規のお客さんには若者が多くて、多少影響を受けにくいことがあると思います。なので、いまはビギナーへのアプローチは私たちの世代が引き受けるのが自然かなと。その上で、腕のある先輩方や重鎮の芸に触れてもらう。これがいい流れかなと。
九龍:ちなみに伯山さん自身、学生時代は一観客としてさまざまな伝統芸能をご覧になった。改めて、その上で講談の道に進まれたのはなぜでしょうか。
伯山:単純に講談が一番好きなんですよ。能、狂言、文楽、歌舞伎などの鑑賞は趣味でいいかなと。文楽以外は世襲制も強いですし。私は、さっきまで畑で大根引っこ抜いていたような人に、何の予備知識もなく喜んでもらえるような芸が好きなんです。イヤホンガイドのいらない世界というか。
九龍:そこは観る側からやる側に回ると、違うわけですね。
伯山:ええ、観る側としては、奥行きのある芸能も全部好きですけどね。ただ、私の場合、チームプレーが馴染まない……(笑)。友だちもいないですし。いろいろな意味で、やはりピン芸向きです。
九龍:万人にわかるイヤホンガイドのいらない芸がある一方、俄(にわか)にはその魅力がわからなくても、後々ある瞬間に、急に勘所がわかる芸もあります。時限爆弾というか。私にとっては、能や文楽がそうでした。特に能は、人生経験とともに身に沁(し)みてくる世界かもしれない。
伯山:そうですね。長い目でみて自分の成長と共に楽しむ文化も、豊かなものだと思います。九龍さんがよく言う、亀井広忠(能大鼓方)の鼓がポンとなると一気に異空間に誘われるというのもわかる。自分の死と向き合うような空間を生み出す能の偉大さ、何百年も超えて存在することの素晴らしさにも感動します。もちろん他の芸能にも、そう感じることがある。ただ、今自分がハマっているのはストリップです。しょせん私はまだ、着物を着ているなぁと。
九龍:裸一貫ではない(笑)。
伯山:裸で舞台に立って、お客さんを引き込む。なにか芸能の本質のような気がして、学ぶことが多いです。そのへん、ストリップまで網羅している九龍さんはさすがです。
(構成/編集部・三島恵美子)
※AERA 2021年1月11日号
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