AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。「書店員さんオススメの一冊」では、売り場を預かる各書店の担当者がイチオシの作品を挙げています。
『理想のリスニング 「人間的モヤモヤ」を聞きとる英語の世界』では、日本語話者のための英語習得法を「聞く」ことの重要性から具体的に解説する。現実のコミュニケーションで重要となる感情や気分、態度など「人間的要素」を重視した英語習得法だ。著者の阿部公彦さんに、同著に込めた思いを聞いた。
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「日本人は英語を読めても話せない」と、長い間言われてきた。
だが、話す前にもっと必要なことがあるのではないか──。それこそが本書のタイトルになっている「リスニングだ」と阿部公彦さん(54)は言う。
相手の話す内容を理解するには、まず聞き、理解しなくてはならないからだ(となれば、聞いた単語の意味を知っていることは大前提だ)。
本書で阿部さんは「言語は“運動”だ」とし、これまで議論されてきた英語の「習得のプロセスで、まだ十分に注目されていないものがある」と指摘する。
あたかも筋トレのように、繰り返し鍛えることで身につくリスニングこそが言語習得の鍵を握るもので、大きな可能性があるというのだ。
「『なぜ日本では英語教育がうまくいかないのだろう?』と、ずっと不思議に思っていました。この点は立場が違っても、多くの人が一致して持っている大問題です」
英文学者であり評論も手がける阿部さんだが、ここ数年は「4技能」を看板にした英語政策や大学入学共通テストのありかたに、疑問を投げかけてきた。
「5歳まで英語圏で過ごし、学習においても恵まれた環境にいたと思う私自身が、リスニングでは苦労しました。なぜリスニングが大事かと言えば、英語特有の運動感覚を身につけることにつながるから。例えるなら『乗る』といっても、英語と日本語では自転車とブランコくらいの差があります。力の入れ具合や身体の動きが異なるのです。もちろん、語彙や文法、構文を学ぶことは必須ですが、リスニングは単語や文法も含めた英語の『体幹』を鍛え、運動感覚に慣れる近道だと思います」