■大国でも国内は脆弱
大野:中国が人口動態上の弱みを抱えているからですか。
トッド:そうです。中国は14億という巨大な人口を擁しています。しかし、急速に高齢化しつつあります。これまでは生産年齢人口に恵まれましたが、その人たちが社会保障制度も整わない中で老いていきます。
状況をさらに深刻にしそうなのが伝統への回帰です。人びとはたくさん子どもを持たなくなったけれど、持つ場合は男の子の方をほしがり、性による選択的中絶をしています。その結果、たくさんの中国人男性が結婚できなくなるでしょう。
他方、教育面をみると、高等教育まで受けるのは15%くらい。ほかの先進国よりまだ低い。けれども巨大人口の15%です。たいへんな数になります。
だから中国は二つに引き裂かれています。高い学歴を持つすごい数の人材によって世界レベルで行動しながら、国内では不均衡に苛(さいな)まれている。外では大国、内では脆弱(ぜいじゃく)なのです。
大野:中国共産党が全体主義的な体制を強化しているのは、国内に抱える問題への批判や不満が噴き出すのを恐れて抑え込もうとしているからでしょうか。
トッド:家族構造と社会の関係を分析してきた人類学者としての視点でいうと、中国の全体主義的な体制は単に悪い指導者がいるからという話ではないのです。中国人自身も教育による伝統などの継承によって、権威主義的な気質を身につけています。
それは共産党とは関係ありません。共産党や軍や警察はその恩恵に浴していますが、体制を創造したわけではないのです。
その起源を探ろうとすれば、紀元前200年から紀元後200年ごろの中国での共同体的な家族構造の登場にまで遡(さかのぼ)る必要があります。(一部敬称略)
(構成/ジャーナリスト・大野博人)
※AERA 2021年1月18日号