首都圏で勤務するある保健師は、民間委託についてこう語る。

「地域のどこに診療所があり、どこの先生が柔軟で受け入れてもらいやすいかなど、地元の細かい事情を知り尽くした保健師が紹介したほうがスムーズなのは間違いない。委託先の業者はコールセンターのプロでも地元事情は知らないから難しいところもあるのでは」

 なぜ県外の企業に委託するのか。県健康推進課は本誌の取材にこう話す。

「信頼できる実績があり専門職も所属しているような、条件に合う業者はなかなか県内にはない」

 行政とセンターとの情報共有はきちんとされているのかを尋ねると、

「センターには医療機関の住所や電話番号が載ったリストを渡し、当番医の情報も提供している。感染情報は逐一知らせていませんが、ホームページなどで把握しているはず」(県健康推進課)

 そもそも業務を民間に委託せざるをえないことには、保健所が別の業務に追われていることが関係している。ある都道府県の幹部がこう語る。

「感染の急増で負担が増えている保健所が積極的疫学調査に集中できるようにするためには、民間委託が必要なんです」

 積極的疫学調査とは、感染者の濃厚接触者を特定して感染経路を明らかにしていく、いわゆるクラスター対策のことだ。

 全国保健所長会の内田勝彦会長(大分県東部保健所)はこう語る。

「コロナ禍で一番力を入れてきたのが、積極的疫学調査。陽性者にこの2週間の行動履歴を1日ずつさかのぼりながら聞きます。『どこで誰と会いましたか』『そのときどれくらい離れていましたか』『マスクをしていましたか』『マスクの素材は』などと聞くので1件につき30分から1時間くらいかかります。そこで洗い出した濃厚接触者に連絡をして、検査を求め、行動自粛を要請する。感覚的には8割くらいの労力と時間を使っている気がします」

 どれくらいの労力がかかっているのか。

「保健所はもともと、結核の疫学調査に対応できる人員を確保していた。結核の新規感染者は全国で1日40人ほど。一方、コロナの新規感染者は6千人以上。全国平均でコロナ前の労力の150倍が必要なんです」(内田会長)

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