瀬戸内寂聴(せとうち・じゃくちょう)/1922年、徳島市生まれ。73年、平泉・中尊寺で得度。著書多数。2006年文化勲章。17年度朝日賞。近著に『寂聴 残された日々』(朝日新聞出版)。
瀬戸内寂聴(せとうち・じゃくちょう)/1922年、徳島市生まれ。73年、平泉・中尊寺で得度。著書多数。2006年文化勲章。17年度朝日賞。近著に『寂聴 残された日々』(朝日新聞出版)。
横尾忠則(よこお・ただのり)/1936年、兵庫県西脇市生まれ。ニューヨーク近代美術館をはじめ国内外の美術館で個展開催。小説『ぶるうらんど』で泉鏡花文学賞。2011年度朝日賞。15年世界文化賞。20年東京都名誉都民顕彰。(写真=横尾忠則さん提供)
横尾忠則(よこお・ただのり)/1936年、兵庫県西脇市生まれ。ニューヨーク近代美術館をはじめ国内外の美術館で個展開催。小説『ぶるうらんど』で泉鏡花文学賞。2011年度朝日賞。15年世界文化賞。20年東京都名誉都民顕彰。(写真=横尾忠則さん提供)

 半世紀ほど前に出会った98歳と84歳。人生の妙味を知る老親友の瀬戸内寂聴さんと横尾忠則さんが、往復書簡でとっておきのナイショ話を披露しあう。

【横尾忠則さんの写真はこちら】

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■横尾忠則「極楽トンボでコロナと共生共存しよう」

 セトウチさん

 2021年が明けましたね。顔面は如何ですか。もうすっきりされたと思いますが? 僕は数年前、顔面神経麻痺(まひ)になってあわや福笑い顔になるところでした。その少し前に描いた自画像は目鼻口がキュビズムみたいにデタラメに付いた絵でした。そしてその通りになりました。想念は一度四次元を通過して三次元に物質現象となって現れます。だからデタラメの想像は危険です。ですから、セトウチさんもスッキリした美人顔を過去完了形で想念して下さい。必ず想(おも)い通りになります。

 コロナは最低最悪ですが、日夜このことを思念すると、相手のコロナはますます、増長します。無視しましょう。と言う僕はムチャクチャの絵を描いています。画家に転向した時ムチャクチャからスタートして、少し見れる絵を描いたら、それに飽きて、またムチャクチャの絵にマッシグラです。ガキの描いた絵のような色も形もテーマもテクニックも全てデタラメを目指しています。というか身体が言うことをきかないので、その言うことのきかない身体にまかせた結果がムチャクチャというわけです。

 と、そんな風に居直ったら、ええ絵を描こうという気が抜けてしまったので気分爽快です。最初から腐(くさ)される絵を目的にしているので気が楽になりました。このまま子供になってしまいたいですね。意欲、好奇心、努力、やる気、評価、ガンバリをはずすと、なんと楽なことでしょう。アホになったのか悟ったのかその境界がない状態です。そのアホ悟り作品が今年は名古屋、大分、東京を巡回します。2022年は上海の現代美術館での個展が控えています。東京ではうんと下手くそな新作20点も発表します。

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