感謝や願いを込めて、参拝客が奉納したお賽銭。だが、大量の硬貨に取扱手数料がかかるため預入時に目減りし、神社も苦慮しているという。AERA 2021年1月25日号から。
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正月、都内に住む会社員の女性(26)は自宅近くの小さな神社を参拝に訪れた。例年は友人たちと明治神宮に出向くが、今年は一人。少し寂しさを感じながら、お賽銭を投げ入れた。目をつむり、手を合わせて祈る。
「ご縁がありますように」
女性のお賽銭は子どものころから5円玉が定番。就活生になる年には、10円玉4枚に5円玉1枚を合わせて「始終ご縁」を意識したこともあった。
賽銭には、参拝客のさまざまな思いが込められている。だが、奉納された硬貨で神社に負担が発生している。硬貨の入金制限や手数料を導入する金融機関が増えたからだ。
「お賽銭や初穂料などで硬貨をお納めいただくことが多く、扱いに苦慮する神社が出ています」
そう打ち明けるのは、埼玉県加須市騎西に鎮座する玉敷神社宮司の宮内由紀子さんだ。
たとえば、三菱UFJ銀行は昨年4月から「大量硬貨取扱手数料」を新設した。100枚までは手数料なしで入金できるが、101枚から500枚までは550円がかかる。仮に1円玉で500枚入金すれば、50円のマイナスだ。他にも、三井住友銀行(2019年12月)やみずほ銀行(20年4月)などが大量硬貨の預入手数料を導入。玉敷神社が利用する銀行でも、硬貨を1日に501枚以上入金する際は手数料がかかるようになった。
「運搬コストや人件費などサービス対価として設定しています」と説明するのは三菱UFJ銀行の担当者だ。硬貨を仕分ける窓口行員はもちろん、機械整備などさまざまなコストが必要となる。全国銀行協会によれば、「手数料導入の流れができている」という。
参拝客から納められた「お気持ち」は、神社の維持と運営に活用される。その一部が手数料に消えるという実情も複雑だが、「手数料」は中小の神社にとって実は大きな負担だ。