その『MOTHER』のサウンドトラック作品が、鈴木慶一のソロ・ワークとして新たにセルフ・リメイクされた。『MOTHER MUSIC REVISITED』だ。

 アレンジをゴンドウトモヒコ、蓮沼執太、佐藤優介らが手がけるなど、オリジナルがリリースされた当時はつきあいのなかった後輩世代のミュージシャンの力も借り、現代的な作品に仕上げている。ビートやリズムを刷新し、新たに蓄積した音楽ボキャブラリーを自由自在に組み合わせていくスタイルは、鈴木慶一の十八番とも言える。鈴木は『座頭市』『アウトレイジ』といった北野武監督作品など数多くのサントラやテレビドラマの音楽も手がけている。だが、そうした作業を「良き実験の場」としてきた彼らしく、斬新で人懐こいアイデアがここにも詰め込まれている。

 同時に、子どもからお年寄りまで口ずさめるような親しみやすいメロディーのフレッシュさも失われていない。オリジナルの『MOTHER』サントラでは、多くのアーティストがボーカリストとして参加していたが、今回は鈴木がすべての歌を歌っている。そのせいもあり、しっかりと歌に向き合ったパーソナルな自作自演アルバムという側面も強く表出された。ビートルズの影響を受けて音楽を始め、その時代、時代に応じてさまざまな音楽を吸収してきた鈴木の、今なお進化しようとする野心と、それでも原点を決して忘れない頑固さの両方を併せ持つ素晴らしい1枚と言えるだろう。

 そんな鈴木は音楽家生活50周年を迎えた。落ち着くどころか、ケラリーノ・サンドロヴィッチとのユニットであるNo Lie-Senseや、世代を超えた男女混合バンドのコントロヴァーシャル・スパークなど、別プロジェクトでの活動も多く、若手アーティストのプロデュースも手掛ける。今年はムーンライダーズとして新作の制作に着手してくれるかもしれない。

この『MOTHER MUSIC REVISITED』の発売に先んじて昨年に行われた50周年記念ライブには、本作に参加する若手ミュージシャンも多く出演し、ちょっとしたパーティーのようだった。ステージには田中宏和も上がり、その客席には糸井重里の姿もあった。鈴木慶一という音楽家の中には過去と現在と未来が自然に接合しているのである。
(文/岡村詩野)

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