■都市伝説増殖のフラグとなった2012年7月のNAVERまとめ記事

 2012年7月28日、今はなきNAVERまとめユーザーによって「マンボウのドジっ子すぎて泣ける生態」という記事が投稿された。この記事はサービスが終了する前に消されてしまったので、もはや今では内容を確認することはできないが、私は同人誌に詳しくまとめていたので、おおまかな内容を確認できる。この記事はYahoo!知恵袋や個人ブログを引用して、いろんな要因で死んでしまうマンボウのドジっ子な生態(情報は正確ではない)をまとめていた。このまとめ記事は多くの人々にウケて、後に大きな影響力を持つことになった。

 2012年8月4日、Twitterユーザーによって、「マンボウの死因いろいろ」と題して、上記NAVERまとめを短くまとめたと思われるツイートが16000回以上リツイートされた。さらに、2012年8月28日、NAVERまとめで上記とは別のユーザーによって「『泳ぎが下手』『寄生虫だらけ』不思議生物・マンボウの生態トリビア」という題で記事にまとめられ話題になった。この2012年で話題になったマンボウの死因は、まだ実際のマンボウの生態的知見に関連していたが、2013年はここから派生して実際の生態とは全く関係ない死因(例:朝日が強過ぎて死亡)が著しく増えることになった。

■都市伝説の真偽の検証

 2012年7月28日の記事は、引用元の情報の真偽性までは検証されなかったようだ。投稿者は専門家ではないので、そこまで調べないのはある意味当然である。この記事は、それまでインターネット上になかった以下の都市伝説を生み出す結果となった:「ほぼ直進でしか泳げない→岩に激突死」「一気に海底に潜水する→凍死」「日向ぼっこ→鳥に突かれ化膿死」「日向ぼっこ→寝てたらいつのまにか陸に座礁死」。都市伝説の厄介なところは、一部に事実を盛り込み、あやふやな情報で繋ぎ合せて、いかにもありそうな話として伝えられる点である。これらの死因は結論から言うとすべて虚偽であるが、マンボウの生態的側面から見れば、「深く潜水する」「海上で海鳥に突かれる」は事実である。

 しかし、それらが原因でマンボウが死んだことは誰も確認していない。もう一度言おう、誰も確認していない。投稿者は想像を膨らませてマンボウならそれらが原因で死ぬこともあると思ったのであろう。

 ネットの記事は消されると証拠が残らない。私が記録していなかったら、このマンボウの死因にまつわる都市伝説の真相も、歴史の闇に葬り去られていたことだろう。マンボウの死因にまつわる都市伝説の種類が増えたきっかけは、NAVERまとめが大きく関与しているが、これだけがすべてではない。マンボウの都市伝説の他の要因については、また別の機会にお話ししよう。

【主な参考文献】 澤井悦郎.2017.マンボウの現代民俗―ネットロア化した「マンボウの死因」に関する考察.Biostory, 27: 89-96.

●澤井悦郎(さわい・えつろう)/1985年生まれ。2019年度日本魚類学会論文賞受賞。著書に『マンボウのひみつ』(岩波ジュニア新書)、『マンボウは上を向いてねむるのか』(ポプラ社)。広島大学で博士号取得後も「マンボウなんでも博物館」というサークル名で個人的に同人活動・研究調査を継続中。Twitter(@manboumuseum)やYouTubeで情報発信・収集しつつ、今年4月以降もマンボウ研究しながら生きていくためにファンサイト「ウシマンボウ博士の秘密基地」で個人や企業からの支援を急募している。

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