漫画家&TVウォッチャーのカトリーヌあやこ氏が、「その女、ジルバ」(フジテレビ系 土曜23:40~)をウォッチした。
【画像】カトリーヌあやこ氏も驚く 「その女、ジルバ」のヒロインの見事な老けっぷりとは…
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ホステスが久本雅美で、客は鼻にピーナツ詰めてない梅垣義明。ここはワハハ本舗? いやいや、ここはBAR「オールドジャックアンドローズ」。まとめて平均年齢70歳の高齢熟女バーだ。
「ホステス求ム! 40才以上」の貼り紙を見て、つい店に足を踏み入れた笛吹新(池脇千鶴)。
自分磨きはとっくに忘れ、最近夢は悪夢しか見ない。恋なんてものがこの世にあったのか、もはや思い出せない物流倉庫勤めの独身40歳。
そんな彼女を迎え入れたのはキラキラしたくじらママ(草笛光子)と、生き生きとした熟女ホステス・菊子(草村礼子)、衿子(中田喜子)、七子(久本)のトリオだ。
彼女たちにドレスを見立ててもらい、メイクを施されホステスデビューを果たす新。近所のおっちゃんやサラリーマンの客が一斉に叫ぶ。
「ヤングギャルだ!」
「ピチピチしすぎだよ」
「このキャピキャピ娘」
ここあれだな、夢の国だな。ようこそ、40歳から入場可の「やすらぎの郷」へ。石坂浩二みたいなめんどくさそうなおじさんもいない、あなたを癒やすだけの天国です。
この40歳というのが絶妙だと思う。独身だろうが、結婚していようが、一番ほめられることが少なく、日常でちやほやされにくいのが40歳代の女性ではないか。
職場では微妙なポジション、家ではお母さん。独身40歳には合コンもありゃしない。でも彼女たちはみな日々頑張り、疲れ果てている。夫はほめてくれますか? 誰かちやほやしてくれますか? 毎日が孤独ではないですか?
誰もが優しくされたい。人生の機微に通じた達人たちに認められ、甘やかされ、やすらぎたい。それを具現化した店「オールドジャックアンドローズ」。
あり得ない夢のおとぎ話とも思えるけれど、このドラマの中で、とてつもなくリアルなのがヒロイン池脇千鶴の老けっぷりなのだ。その目の下のクマ、ほうれい線。フェースラインのたるみと、昼休みに弁当を食べる時の背中の丸み。
そんな彼女がホステスを経験し、まず笑顔を取り戻す。表情にハリが出てくる。薄皮一枚ずつゆっくりと。また一枚剥ぐようにほんの少し。その変化があまりにリアルで、このファンタジーから目を離せなくなるのだ。
カトリーヌあやこ/漫画家&TVウォッチャー。「週刊ザテレビジョン」でイラストコラム「すちゃらかTV!」を連載中。著書にフィギュアスケートルポ漫画「フィギュアおばかさん」(新書館)など
※週刊朝日 2021年2月12日号