一方、同じ20年放送のドラマでは、終末期の患者と探偵や看護師の交流を描いた「天使にリクエストを~人生最後の願い~」では全く違う側面を聴かせた。枯れた風合いのあるロードムービー調のタイトル曲「天使にリクエストを」にどの曲もしっかり寄せてあり、フォーク風味の「旅は人生」、スワンプロックスタイルの「虚しい結末」といった曲からは、ライ・クーダーやジェイムス・テイラーといった70年代のシンガー・ソングライターも想起させられる。人生を終えようとする人々を主題にしたドラマの内容を見事に音で表現してみせた。作品全体で一つの方向性を明確にした、河野伸のソロ作品とカウントしたいくらいの素晴らしいアルバムだ。

 「テレビドラマは映画と違い作曲の段階で撮影が終わっていません。映画では編集が終わった画面を見ながら作曲できるので、そのシーンに寄り添った音楽、例えばピアノの3~4音で十分なシーンとか、それほど音楽的に興味を引く必要のない場面があったりします。一方、絵がないドラマの場合は、台本は読んでいるのですが、どうしても音楽的な面白さからの作曲のアプローチになります。もちろんテーマになる曲やリズムのある曲は、思う存分自由に作りますが、心情に寄り添うシーンの音楽では自分の興味の向くままに作って大げさすぎたり、使いにくかったり、その作品に合っていなかったり、逆につまらなすぎたりということがないようにと、そのさじ加減が難しいです」

 今回取材に応じてくれた河野は、ドラマの劇伴制作の難しさ、醍醐味をこのように語ってくれた。なるほど、とりわけ連ドラは撮影と平行しての作業になる。キャラクターがどういう動きをして、どういう表情をするのかを映像でほとんど確認できないまま仕上げていかねばならない。しかも、1分程度の小品や、歌や歌詞のないインストが圧倒的で、フル尺で流れないどころか、場合によってはほとんど使用されないこともある。劇伴の仕事がいかに厳しく高度な技術や想像力を求められるかを思い知る。

 それでも河野の劇伴は曲自体が表情豊かで、実に生き生きとしていて、それでいて一つのアルバムとして独立して楽しめる作品性の高さもある。現在放送中の「知ってるワイフ」「俺の家の話」も、そんな河野の努力が反映された曲が全編で流れるドラマ。あらためて、音楽を意識しながら観てほしい。

(文/岡村詩野)

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