河野が初めてドラマの劇伴を手がけたのは、2000年に放送された草なぎ剛主演の「フードファイト」。エンディング曲にSMAPの「らいおんハート」が起用されたこの作品で、河野は旧知の桜井鉄太郎らと組み、登場人物の個性を生かした曲の数々を見事に作り上げた。90年代に多くのサポート仕事で場に応じた多様な表情を音で表現した経験が生かされるかのように、2000年代以降はドラマ、映画、舞台の劇伴が一気に増えていく。中でもドラマの仕事で河野の良さが存分に発揮され、「世界の中心で、愛をさけぶ」(04年)、「ハチミツとクローバー」(08年)、『美女と男子』(15年)、『重版出来!』(16年)……と、コンスタントに話題作が続く。前述のように、18年には「おっさんずラブ」と「大恋愛」の2作品を手がけている。また、去年幕を開けた劇団四季の「ロボット・イン・ザ・ガーデン」では全曲作曲と編曲を担当しているという。

 河野の劇伴の一番の魅力は、オーケストラ・サウンドをふんだんに使ったカラフルなアレンジにしっかりと情緒豊かなメロディーを与え、あくまで人懐こい風合いに仕上げられているところだろう。河野の劇伴を聴くと、クラシックや吹奏楽スタイルはもちろん、ジャズ、ファンク、タンゴ、ブラジル音楽、ハードロック、スパイ映画風音楽……と、ありとあらゆるジャンルの音楽に精通していることがよくわかる。また、その知識をフル回転させるかのように、かゆいところに手がとどくような仕上がりになっている。だが、不思議と作品そのものの敷居は高くない。ヘンリー・マンシーニ(「ティファニーで朝食を」他)、ミシェル・ルグラン(「シェルブールの雨傘」他)、エンニオ・モリコーネ(「荒野の用心棒」他)といった、映画音楽を多く手がけてきた歴史的巨匠たちの持つ、圧倒的なコンポーズ能力と、そこに甘んじないウィットセンスも受け継いでいる。

 実際、河野の劇伴はユーモアや躍動、シリアスさや穏やかさのどちらにも寄り添っている。例えば、医者と看護師の恋を描いた「恋はつづくよどこまでも」。佐藤健演じるドSの「魔王」こと天堂と、上白石萌音演じるドジっこの「勇者」こと七瀬がユーモラスに絡むシーンではスイングジャズ調の軽快な曲「勇者と魔王」が流れ、天堂の強気なツンデレ具合が炸裂する場面ではハードなギターとハーモニカが痺れるブルースロック調「ドSの魔王」がかかる。どちらもクスッと笑える劇中の場面を見事に捉えた曲だ。

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