「アップルが傲慢であるという印象を与えた。さまざまな心配や誤解を与えたことを、心から謝罪したい」

 米アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)が、中国の消費者向けに謝罪する声明を発表したのは、今月1日。

 これに先立つ半月ほど前から、中国の政府系メディアによるアップル批判報道がエスカレートしていた。口火を切ったのは、国営中国中央テレビが3月15日の「世界消費者権利デー」に放映した特集番組「3・15の夕べ」。アップル製品が保証期間内に故障した際、「他国では新品と交換するのに中国では修理で応じる」などとした。翌日の全国ニュースでも、アップルのアフターサービスは「二重基準」だとして批判した。

 これに対し、アップルは23日、「修理か交換かは機種や故障箇所によって決まるが、中国での対応は他国とほぼ同じ」とするコメントを発表した。しかし、この反論も中国メディアの怒濤のような批判にのみ込まれた。

 それにしても、そもそも修理の仕方ぐらいで、全国のメディアが一斉にここまでの批判を展開するものだろうか。実は、その背後には、中国政府の真の狙いがあると見られる。

 中国の携帯電話最大手の中国移動は、約7億人もの加入者を抱える。この中国移動が次世代のiPhoneを取り扱うかどうかをめぐり、アップルと数カ月前から交渉を続けているが、難航していたという。ネックとなったのは、中国移動が中国独自の3G規格「TD-SCDMA」方式を採用していることだ。同方式の研究開発に、中国政府は長年にわたり、大量の資金と人を投入してきた。しかし、国際的に孤立した技術である同方式の採用にアップルは乗り気ではないと見られてきた。アップルは世界基準の通信方式を採用する競合他社にiPhoneを提供していた。

 急伸する中国のスマホ市場をアップルが席巻する中で、「アップルの端末がTD-SCDMAを採用してくれないと、同方式はますます利用されなくなってしまうと中国政府は焦っていた」。専門家はそう指摘する。

 4月に入って、政府系メディアによるアップル批判もようやく下火になってきた。その一方、業界の一部には、アップルが近く、中国向けにTD-SCDMAに対応したiPhoneの後継機の発売を始めるとの観測が出始めた。そうなったとしたら、これは、メディアまで総動員した中国政府の「ごり押し」の結果なのだろうか。

AERA 2013年4月22日号