役所:原作と脚本との印象はまったく違いました。原作を読んだ時は、こんな男がそばにいると嫌だなと思ったんです。観客はこの男が嫌いだろうと。三上は4歳で母親と離別して養護施設で育ち、10代半ばから暴力団と関わって大半の人生を刑務所で暮らしてきた。かわいそうな境遇ではあるんですが、好きにはなれませんでしたね。ところが、脚本はまったく別物。映画を観客として見た時に、西川監督の三上を見つめるまなざしの温かさというのかな、優しさみたいなものを感じました。三上の周りにいる人たちの温かなまなざしと似ているような気がして。優しさがにじみ出てくるような演出をされたんだろうなと思っていました。

西川:ありがとうございます。役所さんは三上をどのように捉えていたのですか。

役所:本人は気づいていなくても、生い立ちが人格を作ってきたところはある。養護施設に入ってから飛び出すまでの間に、先生たちに教わったこと、例えば弱いものいじめをしてはいけないといったことを、長年ずっと守ってきたんじゃないかな。三上にはそういう良さもあるような気がしました。

■チャーミングと思って

西川:私はワンカットずつ撮影しながら、自分が書いた三上が、まさにカメラの前で人として存在している、という実感を強めていきました。クランクイン前に、役所さんに一つだけ申し上げたんですよね。「観客に三上というキャラクターをチャーミングだと思ってもらいたい」と。三上は悪い癖もたくさんある人物ですけど、私たちと決定的に溝のあるモンスターではない。役所さんは欠点も余すところなく表現しつつ、人間としてのかわいげ、というか魅力で見る人を引き付け続けてくださいました。

役所:元々おかしみのある脚本ですからね。いい脚本だと読んでいる間に自然とキャラクターができあがってくる気がします。三上の周りには、彼を困ったやつだなと思いながらも、最終的には手を差し伸べてくれる人たちがいます。それは三上に愛嬌がないとできないと思うんです。だから、(見る人に)そういう印象を与えることが大切だと思っていました。

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