半世紀ほど前に出会った98歳と84歳。人生の妙味を知る老親友の瀬戸内寂聴さんと横尾忠則さんが、往復書簡でとっておきのナイショ話を披露しあう。
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■横尾忠則「小さな奇蹟あり 長生きは面白い」
セトウチさん
「週刊朝日」はセトウチさんと同い歳の99歳だそうですね。改めて週刊朝日の99周年お祝い申し上げます。そしてセトウチさんの99歳おめでとうございます。
どーいうわけか週刊朝日とは今まで全くご縁がありませんでした。セトウチさんとの往復書簡がなければ、このまま終(おわ)るところでした。山藤章二さんの似顔絵塾に登場したかなと思う程度でした。朝日新聞社関連の他の雑誌、例えば「朝日ジャーナル」では表紙デザイン(この号は発禁騒動)とイラスト時評の連載、「アサヒグラフ」ではグラビア特集と表紙出演、「AERA」では表紙出演と表紙デザインなどのおつき合いがありましたが週刊朝日だけはお呼びじゃなかったですね。
ところが一昨年の11月に、知人の企画プロデューサーの根本隆一郎さんが昭和31年4月15日号の週刊朝日に僕のカットが掲載されているのを発見したと言って、当時の週刊朝日の現物を送って下さいました。見ると「読者と編集者」欄に僕の20歳の時に投稿したらしい「サクラ」と題したカットが出ていて、もうびっくり、それにしても65年前の僕の絵をよく見つけられたものです。20歳の4月といえば、地方の印刷工場を辞めてぶらぶらしている頃に投稿したカットだったんでしょうね。人生には不思議なちょっとした奇蹟(きせき)があって、やっぱり長生きすると面白いこと、いいことがありますね。
もし僕がセトウチさんと同じ99歳まで生きるとするとまだ15年もあります。もう絵もこれ以上描いても下手になる一方だから、そろそろ止めてもいいんですが、週刊朝日で起(おこ)った小さな奇蹟などを考えると、まだ何かあるかな? と思ってしまいます。でも何かあるとしても、色んな病気に見舞われるくらいだったら、さっさと引き揚げるのもいさぎよく、悪くないかな、と思います。