さらに、「うっせぇわ」のヒットの要素として、ミュージックビデオにアニメを起用していることです。アニメ化は、最近の楽曲の重要なトレンドです。ミュージックビデオがアニメでなければ、ここまでのヒットにはならなかったかもしれません。アニメの絵柄がこの楽曲の「アングラ感」を際立たせています。楽曲も、初音ミクなどのボーカロイドが歌うような曲調であり、ボーカロイドの曲を歌い手が歌っているような、斬新な印象です。これらの要素が、「うっせぇわ」をインターネットの中の曲、という印象づけています。
そして、この曲のヒットの一番の要素は、中二病をとことんこじらせた歌詞です。人は、誰しもが「特別な自分」「人とは違う自分」でありたいと思う時期があります。特に思春期に顕著に現れるので、中二病と呼ばれます。反抗期として態度にだす人もいます。実は音楽は、昔から「中二病」をこじらせた曲がヒットしています。今、「うっせぇわ」を聴いて眉を潜めている大人たちも、学生時代には中二病満開の曲を聴いているはずです(自分が若い頃に聴いていた曲の歌詞を冷静に考えてみてください)。「自分は人とは違うんだ」「人にわかってもらえない」「普段は偽りの自分」「本当の自分はすごい」「大人は汚い」という内容の歌詞は、どの時代でもウケる定番の型です。共感しやすいからです。「うっせぇわ」はヒットの経路や演出や見せ方は現代的ですが、ヒットの根幹は昭和の頃から変わらない「中二病」です。個の時代と言われながら、空気を読んで行動している中高生たちの、心の声を代弁しているのが「うっせぇわ」です。だから「共感」されて「拡散」され、ヒットしています。
今後も、SNSを起点とした音楽のヒットは続くでしょう。SNSの良いところは、プロだけでなく、アマチュアや一般人も参入できる点です。YouTubeやTikTokを起点にすれば、低い予算で誰でも音楽をリリースすることができます。特にYouTubeと音楽は非常に相性が良いと思います。2020年に再生されたYouTube動画の世界ランキングトップ10のうち、9つがミュージックビデオです。「うっせぇわ」を聴いて眉をひそめるのではなく、興味を持ってヒットの要素の研究をすると、クリエイターとしての素養ができると思います。