女性蔑視発言をきっかけに辞任した森喜朗前会長の後任が、橋本聖子氏に決まった。この人事には後がない菅政権の思惑や、森氏との関係性が透けて見える。AERA 2021年3月1日号の記事を紹介する。
※【“キス報道”ですねにキズもつ橋本聖子新会長の苦悩 迫られる「二つの決断」と「最大の課題」】より続く
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森氏の女性蔑視発言に端を発する一連の騒動を政権はどうみているのか。菅義偉首相に近い自民党関係者は、橋本氏の起用は本人を含め、官邸、五輪関係者、ジェンダーに対する世論など「誰も傷つくことがないベストシナリオだ」と語る。
「菅首相の頭の中にあるのは、無観客であっても、例え外国選手団が数十カ国になったとしても、今年、絶対に東京大会を開催することです。国際オリンピック委員会(IOC)との協議で、そんな官邸の意向を汲み、足並みを揃えて対応できる人材が絶対条件でした」
安倍晋三前首相が森氏に絶大な信頼を寄せていたのに対し、菅首相と森氏の「距離」を指摘する声は多い。安倍前首相と森氏は同じ派閥の出身で、国家観や上意下達の「体育会系」の価値観を共有していた。
一方、実務派で調整型の菅首相と森氏の間柄は、至って冷めた関係だった。「俺に全権を預けろ」という考え方の森氏と、「まずは相談と根回しを」という菅首相は、最初から馬が合わなかったのだ。そんな2人の調整役が、五輪担当相の橋本氏だった。
「組織委員会の決定事項は、官邸にはすべて事後報告で、官邸は森氏の独断専行を快く思っていなかった。橋本氏を五輪担当相として起用したのは、それを見越した菅さんの人事だった。その意味では森氏よりも、むしろ橋本新会長のほうが、官邸にとっては好都合なのです」(前出の自民党関係者)
菅首相の「意中の人」だった橋本氏は、新会長への期待が高まる中でも就任に難色を示し続けていた。だが、最終的には菅首相が説き伏せたという。
実は、森氏が盟友である川淵三郎氏に会長職を禅譲しようとしたにもかかわらず果たせなかったのは、菅官邸による介入があったからだ。