辞任必至の状況に追い込まれた森氏が川淵氏と面会して後任を依頼した際、森氏から官邸に事前相談はなかった。報道でこの動きを知った菅首相は、激怒したという。これまで、人事を駆使して内外に自らの影響力を見せつけてきた菅首相としては当然のことだろう。
■開催に政権浮揚を託す
もちろん、これまで五輪組織委員会の人事は永田町、霞が関の「外」にあったが、そう言ってもいられない状況に菅政権は追い込まれている。
相次ぐ自民党国会議員による「政治とカネ、夜の不祥事」に加え、「コロナ対応の失敗」「菅首相長男による総務官僚の接待」などで政権の支持率は低迷。この状況で、4月25日には三つの補欠選挙(衆議院北海道2区、参議院長野選挙区、参議院広島選挙区)を迎える。自民党幹部は危機感を口にする。
「もし、三つの補欠選挙を全て落としたら、五輪前に菅降ろしが加速する。しかし、都議会議員選挙もあり政治日程がタイトなため、総裁選の前倒しは難しい。これに加えて、オリンピックの開催が不可となれば、支持率を好転させる要素がひとつもなくなる。ワクチン接種の見通しも不透明だ。そうなると、総選挙で自民党は目も当てられない状況になる可能性がある」
橋本新会長の誕生によって、官邸主導の東京五輪という体制ができあがった。早速、橋本氏は森氏を役職に就けない方針を固めた。国威発揚によって政権支持率のV字回復を狙う菅首相だが、五輪開催実現までの道のりは前途多難であることには変わりがない。
当の橋本氏は2月18日、会長就任が決まった組織委の理事会後に記者会見し、「立場が変わっても、東京大会の開催に向けて前に進めて行くには、私自身が(会長職を)受けるというのは重要だと思いまして、決断しました」と述べた。政権の思惑を背負いつつ火中の栗を拾った結果は、どう出るだろうか。(編集部・小田健司、中原一歩)
※AERA 2021年3月1日号より抜粋