作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。まもなく東日本大震災の発生から10年。今回は、災害とジェンダー、政治の関係について考察する。
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1995年の阪神・淡路大震災で、女性の死者は男性より4割近く多かったという。幼児を除く全ての世代で女性の死者が男性を上回り、特に高齢女性の死が目立った。経済格差による住環境が強く影響したのだ。東日本大震災時も女性の死者のほうが男性を上回っている。女性高齢者が男性に比べて多い現実もあるが、身動きの取りにくい、体力のない高齢女性が多く犠牲になった。また、どちらの大震災も、その後の避難生活のなかで起きた性暴力は女性たちを追い詰めた。
災害時のジェンダーの問題を調査し研究してきた学者たちによる『災害女性学をつくる』(浅野富美枝・天童睦子編著 生活思想社)が、先日出版された。それによると、日本は自然災害のリスクが世界183カ国で近年連続ワースト1位だという。なにそれ……。ジェンダーギャップ153カ国中121位と言われたほうが、「そんなもんでしょうね」と納得できるというもので、この国では災害による死が、どの国よりも、身近という現実には動揺してしまう。しかも災害ワーストの上にジェンダーギャップワーストが重なれば……。女性にとっては、この国、リスクだらけなのかもしれない。
新型コロナウイルス感染によるエピデミックを描いたカナダドラマ「アウトブレイク―感染拡大―」を見た。2019年に撮影を終えていたドラマだが、ズーノーシス(動物由来の感染症)による新型コロナウイルスがいまだ人類には征服できていない脅威である事実が、予言の書のように描かれている。
興味深かったのは、これがホモソーシャルな組織の限界と不正義を描く良質なフェミドラマであることだ。災害とジェンダーの問題は、今、世界共通の認識なのかもしれない。
例えば感染症研究者の女性主人公は、新型コロナウイルスの存在を確認した瞬間から、科学者としての知識と正義と倫理を全開に仕事をする。すべては命を守るためにだ。そんな女性リーダーに対し、こじゃれた広報担当男性(大臣のお友だち)が出てきて、「チームワークが重要だ!」「各自のタスクを達成するための命令系統を守ることが重要だ!!」と大声を出し彼女を制しようとする。政治家にとっては、どのように自分たちの振る舞いが「見えるか」に重点が置かれ、科学ではなく人事で物事を掌握し、現実をさらに悪化させてしまうのである。